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貨幣(太宰治)のあらすじ・登場人物

私は、七七八五一号の百円紙幣です

  • 社会
  • 心理

太宰治 1946年(昭和21年)2月 「婦人朝日」

文字数
5,804字
読了目安
約12分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

語り手は、七七八五一号の百円紙幣。銀行の窓口から若い大工の手に渡って以来、質屋へ、医学生へ、闇屋へと人の手を渡り歩いてきた一枚の紙幣が、自らの半生と戦争末期の日本を語る。太宰治が敗戦の翌年に発表した短編。

あらすじ

「異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。然して、貨幣を女性名詞とす」——この題辞のあと、語り出すのは一枚の百円紙幣である。生まれたころ、百円紙幣はお金の女王だった。はじめて銀行の窓口から手渡された若い大工は、腹掛けのどんぶりにそっと納め、家に帰るとまず神棚に上げて拝んだ。だが幸福な門出は一晩で終わり、翌朝には質屋へ、やがて医学生の顕微鏡と引きかえられ、瀬戸内海の旅館に捨てられる。四国、九州と渡り歩いて六年ぶりに東京へ戻ったとき、街はまっくらな死の街に変わり果てていた。空襲下でも紙幣はリレーのバトンのように人から人へ渡り、皺くちゃになり、さまざまな臭気を身につけていく。人間は命の袋小路に落ち込むと、笑い合わずにむさぼりくらい合うものらしい——と紙幣は嘆く。それでも、生まれてきてよかったと思った瞬間があった。ある小都会の空襲の夜、酔いどれの陸軍大尉を必死で助けた酌婦。翌朝、大尉が逃げるように走り去る前に、紙幣六枚を赤ん坊の背中の肌着に押し込んでいったのだ。「こんないいところはほかにないわ」——皮肉と抒情を織りまぜて敗戦直後の人間を照らした一篇である。

冒頭部(原文より)

異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。 然して、貨幣を女性名詞とす。  私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。あるいは私はその中に、はいっているかも知れません。もう私は、くたくたに疲れて、自分がいま誰の懐の中にいるのやら、あるいは屑籠の中にでもほうり込まれているのやら、さっぱり見当も附かなくなりました。

「貨幣」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

私が自身に幸福を感じたのは、この時でございました。貨幣がこのような役目ばかりに使われるんだったらまあ、どんなに私たちは幸福だろうと思いました。赤ちゃんの背中は、かさかさ乾いて、そうして痩せていました。けれども私は仲間の紙幣にいいました。 「こんないいところはほかにないわ。あたしたちは仕合せだわ。いつまでもここにいて、この赤ちゃんの背中をあたため、ふとらせてあげたいわ」  仲間はみんな一様に黙ってうなずきました。

「貨幣」太宰治(青空文庫)

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