詩ノート(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
新たな詩人よ、嵐から光から
- 文字数
- 24,798字
- 読了目安
- 約50分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
「春と修羅」以後、羅須地人協会の時代に宮沢賢治が書きつづった詩稿群。作品ごとに制作日付と通し番号が付され、病院、汽車、畑の霜、農民の労働といった日々の情景が、心象スケッチのかたちで記録されている。「新たな詩人よ」「新たな時代のマルクスよ」と呼びかける断章群には、賢治が晩年に見ていた理想がむき出しで現れている。
あらすじ
「一九二六、一一、四」——各篇の頭に制作の日付を置いて、この詩稿群は書き継がれてゆく。「途中の空気はつめたく明るい水でした/熱があると魚のやうに活溌で」(病院)、「霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ」、「プラットフォームは眩ゆくさむく/緑いろした電燈の笠」(汽車)——花巻の町と野と、そこを行き来する賢治自身の身体感覚が、鉱物や光学の語彙を交えて刻まれる。羅須地人協会で農民たちに肥料設計を教え、レコードを聴かせ、自らも田に立った日々の記録でもあり、疲労や発熱、周囲との齟齬もそのまま書きとめられている。後半に置かれた〔断章〕の群では、詩の姿はほとんど檄文に変わる。「新らしい時代のダーウィンよ」「新たな時代のマルクスよ/これらの盲目な衝動から動く世界を/素晴しく美しい構成に変へよ」。すべての農業労働を冷く透明な解析によって舞踊の範囲にまで高めよ、諸君のなかには少くとも百人の天才がなければならぬ——。そして「誰が誰よりどうだとか/誰の仕事がどうしたとか/そんなことを云ってゐるひまがあるのか/さあわれわれは一つになって」という呼びかけの途中で、原稿は空白のまま途切れている。
冒頭部(原文より)
七四四 病院 一九二六、一一、四、 途中の空気はつめたく明るい水でした 熱があると魚のやうに活溌で そして大へん新鮮ですな 終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました 市街も橋もじつに光って明瞭で 逢ふ人はみなアイスランドへ移住した 蜂雀といふ風の衣裳をつけて居りました
「詩ノート」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
〔断章七〕 新たな詩人よ 嵐から雲から光から 新たな透明なエネルギーを得て 人と地球にとるべき形を暗示せよ 新たな時代のマルクスよ これらの盲目な衝動から動く世界を 素晴しく美しい構成に変へよ 諸君はこの颯爽たる 諸君の未来圏から吹いて来る 透明な清潔な風を感じないのか
「詩ノート」宮沢賢治(青空文庫)
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