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昇降場(広津柳浪)のあらすじ・登場人物

出征を見送る停車場

  • 社会

広津柳浪 1905年(明治38年)

文字数
4,777字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

広津柳浪が日露戦争中の1905年(明治38)に書いた短編。出征する兵士を見送る人々でにぎわう新宿の停車場を舞台に、見送りに来た若い女性「私」の目を通して場の様子を描く。旗と歓声の中で、「私」は居合わせた対照的な二人の女性に目をとめる。戦時の市井の空気を短く写した作品である。

あらすじ

寒い寒い冬の朝、「私」は友人の若子とともに、その兄が戦地へ発つのを見送りに新宿の停車場へ向かう。停車場は、出征する兵士とその縁者で埋めつくされ、色とりどりの旗が朝風にひるがえっている。雑踏のなかで「私」は、何人かの人に目をとめる。ひとりは、しつこくつきまとう気味の悪い学生。ひとりは、容色は美しいが、何もかもを呪うような鋭い眼をした女——その女は、軍人は死ぬのが商売だ、なぜ人の子を無理に殺しに行かせるのかと、人目もはばからず甲高い声で戦争をののしり、実の兄である兵士に向かって「決して死ぬな」と泣き叫んでは、兄をひどく困らせる。そしてもうひとり、生まれて五月ばかりの赤子を抱いた、貧しい身なりの若い百姓の妻。彼女は、夫となる若い兵士に涙をこらえながら、「お前さんが戦死しても、日本中の人のためだと思って諦めるから」と静かに別れを告げ、赤子の顔を夫に見せる。その慎ましい悲しみに、居合わせた人々は皆もらい泣きする。汽車が出たあと、あの鋭い眼の女は、百姓の妻を「心にもないことを言う」と睨みつける。戦争が市井の人々に強いる別離を、二人の女の対照のうちに描いた一篇である。

冒頭部(原文より)

上  仙台の師団に居らしッた西田若子さんの御兄いさんが、今度戦地へ行らッしゃるので、新宿の停車場を御通過りなさるから、私も若子さんと御同伴に御見送に行って見ました。  寒い寒い朝、耳朶が千断れそうで、靴の裏が路上に凍着くのでした。此寒い寒い朝だのに、停車場はもう一杯の人でした。こんな多勢の人達が悉皆出征なさる方に縁故のある人、別離を惜しみに此処に集ってお居でなさるのかと思ったら、私は胸が一杯になりましたの。

「昇降場」広津柳浪(青空文庫)

末尾部(原文より)

『僕も主義を改めて、あの百姓のお神さんに同情するさ。』  彼可厭と思った学生の声でしたから、私達は急いで停車場を出て、待たせて置いた宅の俥に乗って帰ったのでした。  私は彼女の方は、日本の人か知ら、他国の人じゃないかと思いました。ですけれども、顔だけは何見ても日本の人!

「昇降場」広津柳浪(青空文庫)

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