宿命(萩原朔太郎)のあらすじ・登場人物
散文でうたう宿命の書
- 文字数
- 39,560字
- 読了目安
- 約1時間19分
- 表記
- 旧字旧仮名
この作品について
萩原朔太郎が晩年に自選した散文詩集。「散文詩とは何だらうか」と問う序にはじまり、「死なない蛸」「猫町」的な幻想から「父」「敵」「墓」といった箴言風の断章まで、詩と思想のあいだを行き来する文章を集める。巻末には一篇ごとの自註が付され、作者自身が発想の由来と表現の狙いを明かしているのが大きな特色。後半には「氷島」「青猫」などからの抒情詩も併録されている。
あらすじ
冒頭に置かれた「散文詩について」で、朔太郎はボードレールやツルゲーネフを引きながら、散文詩とは韻律を踏まずして音楽的節奏と芸術美を備えた文学であり、内容の上ではむしろエッセイ的・哲学的な要素を多く持つものだと定義する。日本でいえば枕草子や方丈記こそがそれにあたるが、明治以降その伝統は絶えてしまった——そう述べたうえで、自らが抒情詩のかたわら書き継いできた思想詩とアフォリズムを一冊に編むと宣言する。本文は「ああ固い氷を破つて」「婦人と雨」「芝生の上で」に始まり、「死なない蛸」「郵便局」「海」「墓」「神神の生活」「父」「詩人の死ぬや悲し」など、無数の断章が並ぶ。氷を割って突進する捕鯨船に意志の尖角を見、雨のように濃やかな情緒に婦人を重ね、水槽で自らを食べ尽くしてなお生き続ける蛸に永遠の飢餓を見る。都会の裏路地の小さな祠に祀られる神々には、貧しく善良な人びとの慎ましい祈りの姿を重ねる。巻末の「散文詩自註」では、それぞれの一篇について、着想の由来、シュルレアリスムや精神分析への関心、日本語で思想詩を書くことの困難までが率直に語られる。
冒頭部(原文より)
散文詩について 序に代へて 散文詩とは何だらうか。西洋近代に於けるその文學の創見者は、普通にボードレエルだと言はれてゐるが、彼によれば、一定の韻律法則を無視し、自由の散文形式で書きながら、しかも全體に音樂的節奏が高く、且つ藝術美の香氣が高い文章を、散文詩と言ふことになるのである。
「宿命」萩原朔太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
物みなは歳日と共に亡び行く この文中にある郷土の景物は、すべて私の舊作「郷土望景詩」から取材したものである。郷土望景詩は、私の第三詩集「純情小曲集」中に編入されてるが、この書の後半、抒情詩篇中にもその中の數篇を拔選してある。
「宿命」萩原朔太郎(青空文庫)
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