透明人間(ウェルズ)のあらすじ・登場人物
包帯の客が村を騒がす
- SF
- 翻訳
- 文字数
- 75,277字
- 読了目安
- 約2時間31分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
イギリスの作家H・G・ウェルズが1897年に発表したSF小説『透明人間』を、日本の空想科学小説の草分けとして知られる海野十三が、少年少女向けにまとめた抄訳。原作の筋を追いながら場面を短く区切り、「黒馬旅館の客」「家具がおどる」といった小見出しを立てて、です・ます調ではない歯切れのよい話し言葉でつづっている。二月も終わりに近い雪の朝、イギリスの寒村アイピングの黒馬旅館に、頭を包帯で巻き、帽子も外套も脱ごうとしない奇妙な客がやって来る。部屋に閉じこもって薬品の実験に没頭する男のまわりで、村には不可解な出来事が続き、旅館のおかみや村人たちのうわさが広がっていく。姿の見えない人間という奇想を、まず周囲の人々の驚きと恐れを通して描き、やがて男自身の口から、透明になるまでのいきさつが語られる。
あらすじ
二月の終わりの雪の日、アイピング村の黒馬旅館に、頭を包帯で巻いた男が泊まり込む。男は部屋に閉じこもって薬品の実験を続け、人を寄せつけない。やがて村では牧師の家の金が消え、男の部屋では家具がひとりでに躍り出す。宿代を払えなくなった男は、詰め寄った村人たちの前で包帯をほどいてみせる。そこには顔がなかった。男は姿の見えない透明人間だったのである。服を脱ぎ捨てて逃げ出した透明人間は、浮浪者のトーマスを脅して研究ノートと衣類を運ばせ、各地で金貨を盗んでいく。だがトーマスがノートを持って逃げ、酒場に逃げ込んだ騒ぎのなかで、透明人間は銃弾を受けて傷つく。逃げ込んだ先は、大学時代の知人ケンプ博士の家だった。透明人間グリッフィンは博士に、光と色の研究から体を透明にする方法を見いだしたこと、研究資金のために父の金を盗み、父を自殺に追いやったこと、秘密を守るために下宿に火を放ったこと、そして透明の身では食べることも着ることもままならず、デパートや古着屋を荒らして生き延びてきたことを語る。彼は博士を協力者にしようとするが、その冷酷さに戦慄した博士はひそかに警察へ通報した。裏切りを知ったグリッフィンは逃走し、荘園の執事ウィックスティードを無残に殺害したうえ、博士に殺害予告の手紙を送りつける。博士の家を襲った透明人間は、アダイ署長を撃ち、町へ逃げた博士を追いつめるが、駆けつけた工夫や町の人々に打ちのめされ、息絶える。群衆の見守る地上に、傷だらけの若い男の裸の体が少しずつ姿をあらわした。
登場人物
- グリッフィン 黒馬旅館に現れた包帯の男。透明になる方法を見いだした科学者
- ホール夫人 アイピング村の黒馬旅館のおかみ
- トーマス 透明人間に脅されて荷物を運ばされる浮浪者
- ケンプ博士 グリッフィンの大学時代の知人。科学者
- アダイ署長 バードックの警察署長
冒頭部(原文より)
怪物! そうだ、怪物にちがいない。 怪物でなくて、なんだろう? 科学が発達した、いまの世の中に、東洋の忍術使いじゃあるまいし、姿がみえない人間がいるなんて、これは、たしかに変だ。奇怪だ! しかし、それは、ほんとうの話だった。怪物ははじめに、ものさびしい田舎にあらわれた。それからまもなく、あちこちの町にも出没するようになったのである。たいへんな騒ぎになったことは、いうまでもない。 その怪物の姿は、まるっきり見えないのである。すきとおっていて、ガラス、いや空気のように透明なのだ。諸君は、そんなことがあるもんか――と、いうだろう。だが、待ちたまえ!
「透明人間」ウェルズ(青空文庫)
末尾部(原文より)
透明人間がま近にきたな、と感じた瞬間、ケンプ博士は、したたかに顎に一撃をくらった。倒れたところを脾腹をけられ、つづいて胸を重いものがおさえつけ、のどをしめつけられた。 工夫の一人が、博士の上になっている透明人間のせなかを、シャベルでなぐりつけた。手ごたえがあった。また、なぐった。すると、こんどは博士が上になり、警官もくわわって、透明人間の手や足をおさえつけた。姿を見せない透明人間が、ぐったりとなった。博士のあいずで、みんな手をひいて立ちあがった。 「あっ?」 群衆に囲まれた広場の、博士の足もとの地上に、はじめはかすかに、それから少しずつ……半透明の人の形をした物が姿をあらわし、まもなく、若い男の裸の傷だらけの体がよこたわっているのが、見えてきた。透明人間グリッフィンの最期である。
「透明人間」ウェルズ(青空文庫)
名文
怪物が、はじめて田舎のその村にやってきたのは、たしか二月もおわりに近い、ある寒い朝のことだった。身をきるような風がふいて、朝から粉雪がちらちら舞っていた。
海野十三訳『透明人間』で、謎の男が村に現れる場面。顔を包帯で覆った旅人の到着が、粉雪の朝の静けさの中に描かれる。
原文を読む
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