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断片(富永太郎)のあらすじ・登場人物

群衆のなかで夢を見続ける

富永太郎 1925年(大正14年)5月 「山繭」

文字数
1,311字
読了目安
約3分
表記
新字旧仮名

この作品について

富永太郎が「山繭」第6号(1925年5月)に発表した散文詩。群衆の雑踏のなかを歩きながら悲しい夢を見続ける語り手の、幻想と現実のあわいを描く。蝋人形や象牙細工、豚の丸焼きといった店先の物が語り手を呼び覚ます。詩人の都市体験が反映されている。

あらすじ

冒頭で語り手は「私には群集が絶対に必要であつた」と述べる。肉体の破壊を賭けても、必要以上の群集を喚び起すことが必要だった。幾日も悲しい夢を見つづけながら街を歩き、濃い群集は頭の上で蠢いている。飾窓の駝鳥の羽根付きボンネット、髪や睫毛を植えられた蝋人形、滑らかに磨かれた象牙細工、紅く彩られた巨大な豚の丸焼きが、ときおり彼を目覚めさせるが、すぐまた濃緑色の夢のなかに墜ちてゆく。夢のなかで彼は、人生に劇を見る熱情を急激に失う「失格」をする。硝子越しに胡弓を弾く若い男と、竹の鼓で合いの手を入れる男の児が、通り過ぎた一瞬間のうちに生まれ、昇天するという幻視が語られる。

冒頭部(原文より)

 私には群集が絶対に必要であつた。徐々に来る私の肉体の破壊を賭けても、必要以上の群集を喚び起すことが必要であつた。さういふ日々の禁厭が私の上に立てる音は不吉であつた。  私は幾日も悲しい夢を見つゞけながら街を歩いた。濃い群集は常に私の頭の上で蠢めいてゐた。時々、飾窓の中にある駝鳥の羽根附のボンネツトや、洋服屋の店先にせり出してゐる、髪の毛や睫毛を植ゑられた蝋人形や、人間の手で造られてはならないほど滑らかに磨かれた象牙細工や、紅く彩られた巨大な豚の丸焼きなどが無作法に私を呼び覚ました。私は目醒め、それから、また無抵抗に濃緑色の夢の中に墜ちて行つた。

「断片」富永太郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 厭はしい、涯の無い灰色の舗石の上に並んで叫ぶかたゐの群が、眼を持たぬ蠕虫の黒い眠りのやうに、無限の羨望を以て私を牽いた。しかし、私の眼は、缺け朽ちた小児の二の腕に、陽に光る新鮮な産毛を発見するに終つた。投げ出された膝がしらの切り口は、ギオレツト色の花傘を開いて私の上昇を祝福した。――船具を忘れ、海鳥を忘れ、純白のハンケチの雲を忘れ、私は黒い空気の中で、不潔な老婆らと睫毛の周囲を舞踏した。私は笑ひ声のやうに帰り途を見失つた。太陽はいつものやうに苦くあつた……

「断片」富永太郎(青空文庫)

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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