俯瞰景(富永太郎)のあらすじ・登場人物
溝の水たまりを泳ぐ高貴な魂
- 文字数
- 251字
- 読了目安
- 約1分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
富永太郎の散文詩。溝の水たまりを泳ぐ「高貴な魂」の視点から、梅雨晴れの街を行く人々の足元を見上げるように描く。屈従した低みから世界を見下ろす不思議な妖術を得た魂、という逆転の構図が印象的である。
あらすじ
「溝ぷちの水たまりをへらへらと泳ぐ高貴な魂がある」と始まる。その上、梅雨晴れの輝かしい街衢の高みを過ぎるのは、脂粉の顔、誇りかな香りを放つ髪、新鮮な麦藁帽子、気軽に光るネクタイピンなど、この魂が一日も眺めることを欠かせない物の世界である。魂は、これらの物象の漸層の最下底に身を落とし、軽装の青年紳士の黒檀のステッキの石突と同じ位置にいる。しかしその低みから、すべての部分が自分の上にあるあの世界を見おろすことのできる「不思議な妖術」を学び得た魂、「この屈従的な魂は」と結ばれる。題の「俯瞰」は、低みから見る視線の逆説を指している。
冒頭部(原文より)
溝ぷちの水たまりをへらへらと泳ぐ高貴な魂がある。かれの上、梅雨晴れの輝かしい街衢の高みを過ぎ行くものは、脂粉の顔、誇りかな香りを放つ髪、新鮮な麦藁帽子、気軽に光るネクタイピン……この魂にとつて、一日も眺めるのを欠くべからざる物らの世界である。さて、かれは、これらの物象の漸層の最下底に身を落してゐる。軽装の青年紳士の、黒檀のステツキの石突と均しく位してゐる。しかも、かれは、この低みから、すべての部分がかれの上に在るあの世界をみおろすことのできる、不思議な妖術を学び得た魂である――この屈従的な魂は。
「俯瞰景」富永太郎(青空文庫)
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