アプリで読む

無料・登録不要

遠野の奇聞(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

遠野物語に寄せた怪談談義

泉鏡花 1910年(明治43年)

文字数
4,769字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名
種別
随筆
舞台
  • 岩手県

この作品について

柳田国男の『遠野物語』を読んだ鏡花が、その感想を綴った随筆。本文末に「明治四十三(一九一〇)年九月・十一月」とある。『遠野物語』は同年に刊行されている。山男や河童、お犬の話などの引用を交えつつ、鏡花自身が聞いた越前の山男の話や、他の書物の逸話を語り、怪談観の一端がうかがえる。

あらすじ

鏡花は、柳田国男の『遠野物語』を再読三読しても飽きないと述べ、神や天狗、山男、河童など百十九の話題が紙上から躍り出るようだと称賛する。会津の朱の盤を描いた老媼茶話の逸話などに触れつつ、笛の名人が山中で「面白いぞ」という声を聞く話や、白望で女が走り去る話を引き、形なくして形のある心地がすると評する。金の桶を見た話は「三州奇談」の黄金の山葵に比べられる。山男の伝承は諸国にあるが、この書ほど動き出しそうな趣のあるものは少ないと述べる。越前の杉谷村での山男の目撃談、中国山中の毛だらけの脛の女、巌洞に髪を貼りつけられた女などの話を紹介し、お犬の経立の描写を称えた後、幼い頃に聞いた、雨漏りを恐れる老婆と狼の逸話で結ぶ。

冒頭部(原文より)

 近ごろ近ごろ、おもしろき書を読みたり。柳田国男氏の著、遠野物語なり。

「遠野の奇聞」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 近頃とも言わず、狼は、木曾街道にもその権威を失いぬ。われら幼き時さえ、隣のおばさん物語りて――片山里にひとり寂しく棲む媼あり。屋根傾き、柱朽ちたるに、細々と苧をうみいる。狼、のしのしと出でてうかがうに、老いさらぼいたるものなれば、金魚麩のようにて欲くもあらねど、吠えても嗅いでみても恐れぬが癪に障りて、毎夜のごとく小屋をまわりて怯かす。時雨しとしとと降りける夜、また出掛けて、ううと唸って牙を剥き、眼を光らす。媼しずかに顧みて、  やれ、虎狼より漏るが恐しや。  と呟きぬ。雨は柿の実の落つるがごとく、天井なき屋根を漏るなりけり。狼うなだれて去れり、となり。  世の中、米は高価にて、お犬も人の恐れざりしか。

「遠野の奇聞」泉鏡花(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品