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雲南守備兵(木村荘十)のあらすじ・登場人物

錫の山の少年奴隷

  • 心理
  • 社会

木村荘十 1941年(昭和16年)4月 「新青年」

文字数
37,851字
読了目安
約1時間16分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1941年(昭和16年)に雑誌「新青年」に発表され、第13回直木賞を受賞した短篇。日中戦争下の中国・雲南省を舞台に、国民政府軍の若い伍長・孫永才が、貧民窟で育った自らの出自と、錫の産地・箇旧の鉱山で酷使される少年奴隷たちの惨状に直面してゆく。上官の汚職や鉱山主の搾取、盲目になった弟との再会を通して、忠誠を信じてきた青年が体制への怒りを募らせる姿を描く。直木賞選考では吉川英治らに推された、異色の戦時下の作品である。

あらすじ

一九四〇年、日本軍の侵攻の噂におびえる雲南府。前線から三年ぶりに戻った孫永才伍長は、沈団長の密書を周副官に届け、三日の休暇をもらう。だが母と弟の春生が住んでいた貧民窟は、命令で跡形もなく取り払われていた。酒場で出会った学生たちと飲み明かし、雲南の奴隷売買の実態を突きつけられた孫は、家族を探せないまま前線へ戻る。やがて沈団長は箇旧守備隊長に転じ、孫は乱暴者の黄中尉を射殺して鉱区を押さえ、軍曹に進級する。錫鉱山では十歳前後の子供たちが砒素と酷使、銃殺に苦しんでいた。落盤に埋まった少年を銀貨で坑夫を動かして掘り出させるが、すでに死んでおり、孫は沈大佐に叱責される。鉱山の経理や沈大佐の口から、あの密書が買官の贈り物だったと知った孫は、信じてきた上官と国への信念を崩される。そんなとき、街で盲目の乞食の少年と出会う。それは鉱山で目を失った弟の春生だった。孫は洪将軍の鉱山の残酷さに憤り、弟を連れて死ぬことまで考えるが、飯店で会った老人に諭されて春生を預ける。しかしその夜、孫は鉱山主たちの一行を機関銃で襲い、さらに英国人技師長の邸に忍び込む。混乱の中で鉱山は坑夫たちの避難で大騒ぎになる。老人の助けで、孫は弟たちを連れて箇旧を脱出する。

登場人物

冒頭部(原文より)

孫伍長  一九四〇年……曽つて雲烟万里の秘境として何者の侵攻も許さなかった雲南府も、不安と焦燥の裡にその年を越そうとしていた。  五華山を中心に、雅致のある黄色い塀や、緑の梁や、朱色の窓を持つ古風な家々を、永い間護って来た堅固な城壁も――海抜七千尺に近いこの高原を囲む重畳たる山岳も――空爆の前には何の頼みにもならなかったのである。  その宵も南門外の雲南火車站に着いた小さな貧弱な列車からは、溢れるように避難民が吐き出されて火車站のフランス風の玄関から、新市街へ流れ出していた。  ここの人々は、今ではその後に十万から二十万以上にも殖えていたが、人が殖えるごとに、 「仏印国境から日本軍が攻めて来る」  という噂が、だんだん確からしさを帯びて来て、住民達の憂欝と、焦燥と、自棄の中に街全体を落つきのない騒然たるものにしていた。

「雲南守備兵」木村荘十(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そして孫に改まって訊ねた。 「洪将軍の兵と沈大佐の兵とではどうだな」 「守備隊には洪将軍の息のかかった連中が多いですからね。いざとなるとどうなるか。この兵変は長引くかも知れませんね」 「孫軍曹、決行するなら今夜だね」 「え?」 「箇旧を脱出するなら今夜をおいて外はない。わしの、あの小さな熔鉱炉で出来た錫と通鑑を貸そう。二人を連れて行ったらどうだ」 「でも、それでは老人が……」 「いや、わしのことなら心配はいらない」  老人は、孫を促して小屋へ引き返すと、キラキラ光る錫の延棒を出して云った。

「雲南守備兵」木村荘十(青空文庫)

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