縮図(徳田秋声)のあらすじ・登場人物
一人の女に映る、世の縮図
- 心理
- 社会
- 文字数
- 133,237字
- 読了目安
- 約4時間26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
徳田秋声の絶筆となった長編小説。1941年(昭和16年)に「都新聞」へ連載されたが、戦時下の情報局から風俗的だとして干渉を受け、作者が筆を折ったため八十回で中絶した。日本橋の貧しい家に生まれ、子守奉公から酌婦、芸者へと流れていく一人の女・銀子の半生を、感傷を排した淡々たる筆致で追う。書名は、一人の女の来歴のうちに明治から昭和にいたる庶民の生活の縮図を見ようとした意である。自然主義文学の到達点と評され、未完でありながら秋声の最高作とする声が高い。
あらすじ
戦時下の銀座。芸者屋を営む銀子は、長年連れ添うように付き合ってきた均平と食事をしながら、統制のきびしくなった世相を眺めている。物語はそこから、銀子の来し方へと遡ってゆく。日本橋の裏長屋に生まれた銀子は、父の商売の失敗で一家が離散し、幼くして子守奉公に出された。奉公先を転々とするうち、やがて酌婦として売られ、方々の土地を流れ歩く。若い身空で幾人もの男に弄ばれ、堕胎を重ね、それでも決して自らを憐れまない。芸者に出てからは、旦那を取っては別れ、置屋の女将の思惑にふりまわされながらも、生来の素朴さと明るさで世渡りをしていく。実業家・若林との関わり、そして根なし草のような均平との腐れ縁。境遇を嘆きもせず、過去を悔いもせず、ただ目の前の日々を生き抜いていく銀子の姿を通して、明治・大正・昭和を貫く底辺の女の生活史が、微細な観察のうちに積み上げられていく。
登場人物
- 銀子 日本橋の貧家に生まれ、子守奉公から酌婦、芸者へと流れてきた女
- 均平 銀子と長く腐れ縁を続ける、養家に反感を抱く男
- 若林 銀子の旦那となる実業家
- お神 銀子の置屋の女将。鼻元思案で世話を焼く
冒頭部(原文より)
日蔭に居りて 一 晩飯時間の銀座の資生堂は、いつに変わらず上も下も一杯であった。 銀子と均平とは、しばらく二階の片隅の長椅子で席の空くのを待った後、やがてずっと奥の方の右側の窓際のところへ座席をとることができ、銀子の好みでこの食堂での少し上等の方の定食を註文した。
「縮図」徳田秋声(青空文庫)
末尾部(原文より)
銀子が訊くと、何のことはない。それはお神の鼻元思案で、銀子が今までにしてもらったダイヤの指環に、古渡珊瑚や翡翠の帯留、根掛け、櫛、笄、腕時計といった小物を一切くるめて返すようにと言うので、銀子はせっかく貰ったものを取りあげられるのが惜しく、不服だったが色に見せず、急いで家に帰り、片手ではちょっと持てないくらいの包みにして、持って来た。お神はそれを受け取り、さも自分の指図に出たことだと言わぬばかりに、若林の前へ持ち出した。 若林は「ふむ」と顔を背向けていたが、女にくれてやったものまで取り返すほど行き詰まっているわけでもなく、一旦持って帰りはしたものの、四五日すると、お前の智慧ではあるまいと言って、そっと銀子に返してくれるのだった。
「縮図」徳田秋声(青空文庫)
原文を読む
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