柳沢(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
たいまつの山登り
- 文字数
- 3,260字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
宮沢賢治の短い散文。夜の山宿に泊まり、深夜に起きてたいまつを手に山へ登る一行を、かっこ書きの会話とスケッチで描く。林野局の人たちとの葡萄酒のやりとりや、道に迷って宿へ戻るまでの、夜明けの空の色の移り変わりが見どころ。
あらすじ
林の中を急いで抜け、山の宿に着く。「私」たちは二時まで泊めてもらう約束で床につくが、隣の部屋では、測量や実弾射撃の話をする帝室林野局の人たちが、手作りの葡萄酒をすすめに来る。二時半に起き、たいまつをともして山へ向かうと、山頂は雪で白く光っている。祈りの偈を唱えて進むが、道が細くなって枝分かれし、曇って方角を失い、宿へ戻ることにする。雨に降られながら戻って火をたき、着物を乾かすうちに空が明るくなる。日が出ると、皆は朝の光のなか、ふたたび山へ駆け出していく。
冒頭部(原文より)
林は夜の空気の底のすさまじい藻の群落だ。みんなだまって急いでゐる。早く通り抜けようとしてゐる。 俄に空がはっきり開け星がいっぱい耀めき出した。たゞその空のところどころ中風にでもかかったらしく変に淀んで暗いのは幾片か雲が浮んでゐるのにちがひない。 その静かな微光の下から烈しく犬が啼き出した。 けれども家の前を通るときは犬は裏手の方へ逃げて微かにうなってゐるのだ。
「柳沢」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
日の光は琥珀の波。新らしく置かれたみねの雪。赤々燃える谷のいろ。黄葉をふるはす白樺の木。苔瑪瑙。 (おゝい。あんまり馳けるな。とまれ。とまれぇ。おゝい。止れったら。待てったら。) うん。朝の怒りは新鮮だ。炭酸水だ。 鈴蘭の葉は熟して黄色に枯れその実は兎の赤めだま。そしてこれは今朝あけ方の菓子の錫紙。光ってゐる。
「柳沢」宮沢賢治(青空文庫)
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