予感(山川方夫)のあらすじ・登場人物
予感を信じる男の短い物語
- 文字数
- 1,904字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「ショートショートの名手」と称された山川方夫が、1961年(昭和36年)に発表した掌編。自分には吉凶を予知する「予感」の能力があると信じる男が、妻とバスで山道を登るさなか、背筋を走る戦慄に突き動かされる。運命と予知をめぐる不条理を、わずか数ページのうちに切れ味鋭く描き出した、山川ショートショートの代表作である。
あらすじ
男は、自分に吉凶を予知する能力があると信じていた。ことが起こる前に、背筋を走り下りるしびれるような戦慄が、結果をあらかじめ告げてくれるのだ。学年試験も入社試験も、妻との出会いも、すべてこの予感が的中してきた。妻とふたり、山腹を削った道を大型バスで登っていくその日、彼の背中ではさっきから警笛のような戦慄が鳴りつづけていた。「このバスは転落する」と確信した彼は、笑い飛ばす妻を必死に説き、不機嫌な運転手にかけあって、二人はバスを降りる。歩いてゆくと言い張る若い夫婦を、乗客たちは不審げに見送った。バスはカーブを切り、二人の姿は崖の斜面に隠れる——。その日の夕刊は、こう報じた。観光バスが小猿峠付近でハンドルを切りそこねて転落したが、一段下の道に落ちて止まったため乗客に死者はなかった。ただ、下の道を歩いていた一組の夫婦が、そのバスの下敷きとなって即死した。この夫婦は、その寸前にバスから降りたところだった、と。予感は、たしかに的中していたのである。運命の皮肉を鮮やかに切り取った、名品ショートショートである。
登場人物
- 彼 吉凶を予知する能力を信じる男
- 妻 それを信じない
冒頭部(原文より)
深い谿をへだてた小さな山の斜面に、ぽつぽつ新緑が目立ちはじめ、その山肌に明暗の模様をつくりながら、いくつかの雲の落す影が動いている。遠く近く、早春の褐色の山の起伏がつらなり、それと明るくみずみずしい真青な空との対照は、美しいといえば美しく、和やかといえば和やかな景色だったが、でも、彼はそれどころではなかった。
「予感」山川方夫(青空文庫)
末尾部(原文より)
『――今日午後二時ごろ、××観光の大型バスが、小猿峠付近でハンドルを切りそこねて転落した。さいわい一段下の道に落ちただけで止ったので、乗客には死者はなかった。 だが、下の道を歩いていた一組の夫婦がバスの下敷きとなって即死。この夫婦は、その寸前にこのバスから下りたところだった。』
「予感」山川方夫(青空文庫)
原文を読む
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