四日間(ガルシン)のあらすじ・登場人物
戦場に四日間置き去られて
- 社会
- 心理
- 翻訳
- 文字数
- 10,915字
- 読了目安
- 約22分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
二葉亭四迷が訳したガルシンの短編。原作は露土戦争に一兵卒として従軍した作者自身の体験から生まれ、1877年の発表当時ロシアで大きな反響を呼んだ。両脚を撃たれて戦場に置き去られた志願兵が、自分の刺し殺した敵兵の腐ってゆく死骸と並んで四日間を過ごす——その独白だけで最後まで押し通す。日露戦争の前後、ロシア文学の紹介者でもあった二葉亭がこれを日本語に移した。荒々しく息の切迫した口語文は、戦争を「兵一名」としてしか記録しない世界への告発をそのまま伝えている。
あらすじ
森を抜けて突撃するさなか、「おれ」は山査子の茂みに潜んでいた大男の敵兵を銃剣で刺し殺す。畑へ駆け出して二三発撃ったところで味方は一斉に走り出したが、自分だけがその場に残っていた。気がつくと両脚を撃たれ、身動きひとつできない。星が出て、月が昇る。五歩ばかり先に横たわる黒い大きなものは、自分が手にかけたあの敵兵だった。「助けてくれ」と叫んでも応じる者はなく、蟋蟀の声と月光だけが答える。渇きに耐えかね、痛む体を引きずって死骸まで這い寄り、その吸筒の水を飲む。これで数日は生き延びられる——だがそれは、三日で済む苦しみを一週間に引き延ばすだけではないのか。隣に転がる英国製の銃で一思いに、という考えが幾度も頭をよぎる。日が昇るたび、隣の死骸は無残に崩れてゆく。髪が抜け、皮が裂け、蛆が湧き、やがて顔の痕跡すら失われて、軍服の紐釦だけを光らせた骸骨が笑いかけている。「嗚呼戦争とは――これだ、これが即ち其姿だ」。ものを言わぬ道連れを前に、「おれ」は問い続ける。この男は何の罪があって死んだのか。エジプトの百姓として徴られ、行けと言われたから来ただけの男を、自分は何の恨みがあって殺したのか。そして自分もまた、志願だ愛国だと空想に眩んで出征し、母と許嫁のマリヤに涙を流させたのだ。橋の上に味方の騎兵が現れたときには、必死の叫びは蹄の音にかき消され、倒れた拍子に吸筒の水は乾いた地面に吸い込まれてしまう。三日目、四日目——枝のざわめきが「そら死ぬ」「もう見えぬ」と耳元でささやくなか、伍長の声が響く。「鋤を持ち来い! まだ他に二人おる。こやつも敵ぞ!」。埋められかけたところで、ようやく気づかれた。担架に揺られ、繃帯を巻かれ、目が覚めれば師団の仮病舎である。名高い医師が言う。「君は命拾をしたぞ! もう大丈夫。脚を一本お貰い申したがね」。
登場人物
- おれ(イワーノフ) 両脚を撃たれ戦場に取り残される志願兵
- 敵兵 「おれ」が刺し殺し、隣で腐ってゆく大男
- 母/マリヤ 国で待つ母と許嫁
- ヤーコウレフ 「おれ」を見つける隊の伍長
冒頭部(原文より)
忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。第一中隊のシードロフという未だ生若い兵が此方の戦線へ紛込でいるから如何してだろう?と忙しい中で閃と其様な事を疑って見たものだ。スルト其奴が矢庭にペタリ尻餠を搗いて、狼狽た眼を円くして、ウッとおれの面を看た其口から血が滴々々……いや眼に見えるようだ。
「四日間」ガルシン(青空文庫)
末尾部(原文より)
眼が覚めてみると、此処は師団の仮病舎。枕頭には軍医や看護婦が居て、其外彼得堡で有名な某国手がおれの傷を負った足の上に屈懸っているソノ馴染の顔も見える。国手は手を血塗にして脚の処で暫く何かやッていたが、頓て此方を向いて、 「君は命拾をしたぞ! もう大丈夫。脚を一本お貰い申したがね、何の、君、此様な脚の一本位、何でもないさねえ。君もう口が利けるかい?」 もう利ける。そこで一伍一什の話をした。
「四日間」ガルシン(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。