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桜の園(チェーホフ)のあらすじ・登場人物

桜の園は、競売にかけられる

  • 心理
  • 社会
  • 翻訳

チェーホフ 訳者 神西清 

文字数
54,857字
読了目安
約1時間50分
表記
新字新仮名

この作品について

チェーホフが死の年に書き上げた最後の戯曲(1904年初演)を、ロシア文学の名訳で知られる神西清が訳したもの。競売にかけられようとしている桜の園と屋敷を前に、何ひとつ手を打てないまま日を過ごす没落地主の一家と、農奴の子から身を起こした商人ロパーヒンを描く。作者自身は「喜劇」と呼んだが、初演以来、去りゆく階級の哀歌としても読まれてきた。近代演劇を代表する戯曲として名高い。

あらすじ

五月の明けがた、パリから五年ぶりに女地主ラネーフスカヤが領地へ帰ってくる。娘のアーニャ、養女のワーリャ、兄のガーエフ、そして幼いころ屋敷の農奴の子だった商人ロパーヒンが出迎える。かつて領地の名を全国に知られた桜の園は、いまや借金の抵当に取られ、八月には屋敷ごと競売にかけられることが決まっていた。ロパーヒンは「桜の園を切り払い、土地を別荘地として貸し出せば年に二万五千の収入になる」と現実的な案を差し出すが、ラネーフスカヤもガーエフも、先祖代々の桜の園を切るなど考えられないと取り合わない。二人は身についた浪費癖を改められず、叔母からの送金をあてにし、あるいは将軍が金を貸してくれるはずだと言いながら、何の手も打たないまま日を過ごす。大学生トロフィーモフはアーニャに、この庭の一本一本の木から農奴たちの顔がこちらを見ているのだと説く。競売の当日、屋敷では舞踏会が開かれ、そこへ戻ったロパーヒンが告げる——桜の園を買ったのは自分だ、と。一家は散り散りに屋敷を去り、八十七歳の老僕フィールスだけが誰にも気づかれぬまま錠のおりた家に取り残される。

登場人物

冒頭部(原文より)

第一幕 いまだに子供部屋と呼ばれている部屋。ドアの一つはアーニャの部屋へ通じる。夜明け、ほどなく日の昇る時刻。もう五月で、桜の花が咲いているが、庭は寒い。明けがたの冷気である。部屋の窓はみなしまっている。 ドゥニャーシャが蝋燭をもち、ロパーヒンが本を手に登場。 ロパーヒン やっと汽車が着いた、やれやれ。何時だね? ドゥニャーシャ まもなく二時。(蝋燭を吹き消す)もう明るいですわ。 ロパーヒン いったいどのくらい遅れたんだね、汽車は? まあ二時間はまちがいあるまい。(あくび、のび)おれもいいところがあるよ、とんだドジを踏んじまった! 停車場まで出迎えるつもりで、わざわざここへ来ていながら、とたんに寝すごしちまうなんて……。椅子にかけたなりぐっすりさ。いまいましい。

「桜の園」チェーホフ(青空文庫)

末尾部(原文より)

……だが旦那さまは、どうやら毛皮外套も召さずに、ただの外套でいらしたらしい。……(心配そうな溜息)わしの目が、つい届かなかったもんでな。……ほんとに若えお人というものは! (何やらぶつぶつ言うが、聞きとれない)一生が過ぎてしまった、まるで生きた覚えがないくらいだ。……(横になる)どれ、ひとつ横になるか。……ええ、なんてざまだ、精も根もありゃしねえ、もぬけのからだ。……ええ、この……出来そこねえめが! ……(横になったまま、身じろぎもしない) はるか遠くで、まるで天から響いたような物音がする。それは弦の切れた音で、しだいに悲しげに消えてゆく。ふたたび静寂。そして遠く庭のほうで、木に斧を打ちこむ音だけがきこえる。 ――幕――

「桜の園」チェーホフ(青空文庫)

名文

はるか遠くで、まるで天から響いたような物音がする。それは弦の切れた音で、しだいに悲しげに消えてゆく。ふたたび静寂。そして遠く庭のほうで、木に斧を打ちこむ音だけがきこえる。

チェーホフ『桜の園』の幕切れ。弦の切れるような音と、桜の木を切る斧の音が、一つの時代の終わりを告げる象徴的な場面。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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