世の中へ(加能作次郎)のあらすじ・登場人物
京の伯父の店で丁稚に
- 青春
- 家族
- 文字数
- 58,756字
- 読了目安
- 約1時間58分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
- 石川県
この作品について
十三歳の少年・恭三は、病気で寝ていた能登の漁村で京都の伯父の豪勢な暮らしぶりを聞き、中学へ行けると信じて、父だけに別れを告げて郷里を出る。ところが待っていたのは、薬店の丁稚としての単調で窮屈な日々だった。気難しい伯父、したたかな妾のお雪、頼りにしていた姉、病院で出会った看護婦への淡い思い。作者自身の少年期をたどった自伝的作品で、世間の冷たさと人の情を素朴な筆で描く。
あらすじ
十三歳の「私」(恭三)は、能登の漁村で継母とうまくいかず、病気で寝ていた夏、見舞いに来た京都の伯父の金持ちぶりに憧れて、中学へ出してもらえると信じ、盆の日に父だけに別れを告げて舟で故郷を出る。深夜の京都で姉のお君に迎えられるが、伯父は旅館と薬店を営む気難しい人で、翌日から薬店の丁稚にされてしまい、学びたいという望みは口にできないまま、朝から晩まで店に座らされ、居眠りをして墨を塗られ、銀煙管で打たれる。伯父の妾で店を仕切るお雪伯母は優しくもあり、油断のならない人でもあった。やがて伯父は清水の三年坂に家を建てて移り、私は下男のように水汲みや飯炊きに追われ、荒れた手を笑われる。左脚の持病が再発して府立病院に入院すると、看護婦の藤本さんの親切に初恋めいた思いを抱き、見舞いに来た父の情にも触れる。再手術を経て退院し、伯父が始めた陶器の勧工場で働き、少しずつ成長していく。しかし伯父の本妻お文は念仏狂いのまま亡くなり、お雪伯母は病気や眼病で苦しみ、梅林の行者にすがる。伯父は、二十五まで辛抱すれば店を持たせると私に言う。ある夜、鍵屋で私は、姉のお君が私生児を産んで安宿に身を寄せているのを知り、深い羞恥に打たれて世の中が暗くなったように感じる。翌年三月、四条の店は洋食と牛肉の「勇喜亭」として開かれ、私は下足番として客を呼び続けるのだった。
登場人物
- 私(恭三) 能登の漁村から京都へ出てきた十三歳の少年。中学へ行く望みを抱いたまま丁稚にされる
- 伯父 京都四条で旅館と薬店を営む。気難しく癇癪持ちで、無学だが事業好き
- お雪伯母 伯父の妾で、店を仕切る。優しい面と抜け目のない面をあわせ持つ
- お君 恭三の姉。六条の宿屋で育ち、京言葉の垢抜けた娘になっている
- お文伯母 伯父の本妻。別居して暮らし、念仏に凝って亡くなる
- 父(浅次郎) 能登の漁村で暮らす恭三の父。息子の上京を密かに許し、病院へも見舞いに来る
- 藤本 入院先の看護婦。恭三が淡い思いを寄せる
- 幸三郎 お雪の養子。兵役中で、恭三を気づかってくれる優しい青年
冒頭部(原文より)
私が伯父を頼つて、能登の片田舎から独り瓢然と京都へ行つたのは、今から二十年前、私の十三の時であつた。
「世の中へ」加能作次郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
最近私を見ると、お君はよくそんなことを言つて、自分の少しお凸額なのを気にしたり、子供の時に腫物を切つた頬の創痕を悲しんだりして居たが、考へれば、その時すでに姉は情夫を拵へて居たのだ……。 私は当時の姉の淫らな行為を聯想して、堪らなく憎悪を感じた。私自身の純な生活をも汚され、蹂躙されたやうな、強い屈辱を感ぜざるを得なかつた。 「えいがな、泊つてお行きな、伯父さんにあんぢよう言うて暇貰ふといたんやよつて、ゆつくり藪入してお行きな。」 かうお民さんは勧めたけれど、私は辞して帰つた。
「世の中へ」加能作次郎(青空文庫)
原文を読む
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