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伸び支度(島崎藤村)のあらすじ・登場人物

人形娘から少女へ移る春

  • 青春
  • 家族

島崎藤村 

文字数
6,120字
読了目安
約12分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

島崎藤村の短編小説で、1926年に新潮社から出た小説集『嵐』に収められた。主人公は十四、五歳の袖子。母を早くに亡くし、男手一つで子どもたちを育ててきた父のもとで暮らし、かつては人形を愛し、今は近所の二歳の男の子を家に連れてきてかわいがっている。高等女学校の受験を控えた三月のある朝、袖子の身に訪れた変化と、それを前にして言葉にできない父や、事情を知らない兄、世話を焼く女中お初の姿を、少女の内面に寄り添って描く。大人の世界の入口に立った少女の不安と悲しみを、春の若草のイメージに託した作品である。

あらすじ

十四、五になった袖子は人形のことを次第に忘れ、近所の家から二歳の男の子金之助さんを連れてきてかわいがるようになる。妻に先立たれた父さんは、袖子の着る物から持ち物まで自分の好みで選び、いつまでも自分の「人形娘」にしておきたいと思っている。三月のある朝、袖子は敷布を抱えて蒼ざめた顔で女中のお初のもとへ来る。初潮だった。お初は袖子を休ませて世話をし、父さんは事情を察しながらもそれ以上は尋ねられず、兄たちには頭が痛いからだと言い繕う。何も知らない兄に弱虫と責められ、袖子は泣き出しそうになる。翌日から学校へ出た袖子は、以前の自分ではなくなったように感じ、遊び仲間から遠のいて運動場の隅に立つ。一週間ほどで体は元に戻るが、袖子は幼い日に別れを告げる悲しみに打たれる。袖子の母は、袖子を産んで間もなく産後の出血で亡くなっていた。お初が連れてくる金之助さんは変わらず「ちゃあちゃん」と慕ってくるが、袖子はもう以前と同じようにはこの子を抱けなかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 十四、五になる大概の家の娘がそうであるように、袖子もその年頃になってみたら、人形のことなぞは次第に忘れたようになった。  人形に着せる着物だ襦袢だと言って大騒ぎした頃の袖子は、いくつそのために小さな着物を造り、いくつ小さな頭巾なぞを造って、それを幼い日の楽しみとしてきたか知れない。町の玩具屋から安物を買って来てすぐに首のとれたもの、顔が汚れ鼻が欠けするうちにオバケのように気味悪くなって捨ててしまったもの――袖子の古い人形にもいろいろあった。その中でも、父さんに連れられて震災前の丸善へ行った時に買って貰って来た人形は、一番長くあった。

「伸び支度」島崎藤村(青空文庫)

末尾部(原文より)

 子供の好きなお初は相変わらず近所の家から金之助さんを抱いて来た。頑是ない子供は、以前にもまさる可愛げな表情を見せて、袖子の肩にすがったり、その後を追ったりした。 「ちゃあちゃん。」  親しげに呼ぶ金之助さんの声に変わりはなかった。しかし袖子はもう以前と同じようにはこの男の児を抱けなかった。

「伸び支度」島崎藤村(青空文庫)

原文を読む

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