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若菜集(島崎藤村)のあらすじ・登場人物

「まだあげ初めし前髪の」初恋

  • 恋愛

島崎藤村 1897年(明治30年)8月

文字数
18,628字
読了目安
約37分
表記
新字旧仮名

この作品について

1897年(明治30年)8月、春陽堂から刊行された島崎藤村の第一詩集。「初恋」「知るや君」などの恋の詩とともに、季節の移ろい、旅の思い、母を失う悲しみ、さまざまな女性の声を収める。短い抒情詩ばかりでなく、人物の言葉や場面を重ねる長い詩もあり、一冊の中で語り手や調子が変わっていく。七五調を基調とする文語の響きに、林檎、葡萄、草花、琴や笛などの像を織り込み、心の動きを色や音に託す。巻頭では、自らの歌をまだ若い葡萄の房にたとえ、受けとめる人の情によって温かな酒になるだろうと呼びかける。相手へ問いかける言葉や同じ句の反復も多く、読む声の中に感情が立ち上がる構成だ。青春の恋だけで全体を代表させず、独白、物語、風景の歌へと続く表現の幅を味わえる。初刊本には中村不折による挿絵・口絵も付された。

あらすじ

本書は、藤村が二十代なかばで世に問うた五十一篇の詩を収める第一詩集である。巻頭にみずからの詩を「ひとふさの葡萄」にたとえた序詩を置き、「秋の思」「初恋」「おえふ」「六人の処女」など、若い魂のときめきと哀しみをうたった作品が続く。とりわけ「まだあげ初めし前髪の/林檎のもとに見えしとき」とうたい起こす「初恋」は、林檎を手わたす少女への淡い恋ごころを可憐に描いて、日本の恋愛詩の代表として今も広く愛唱されている。文語の格調をたもちながらも、そこにあふれるのは旧い道徳にしばられない若者の自由な感情であり、藤村はこの一集によって、明治の青春の心を新しい詩のことばで解き放ってみせた。近代日本の抒情詩は、ここから始まったといってよい。

冒頭部(原文より)

こゝろなきうたのしらべは ひとふさのぶだうのごとし なさけあるてにもつまれて あたゝかきさけとなるらむ ぶだうだなふかくかゝれる むらさきのそれにあらねど こゝろあるひとのなさけに かげにおくふさのみつよつ そはうたのわかきゆゑなり あぢはひもいろもあさくて おほかたはかみてすつべき うたゝねのゆめのそらごと

「若菜集」島崎藤村(青空文庫)

末尾部(原文より)

舟路も遠し瑞巌寺 冬逍遙のこゝろなく 古き扉に身をよせて 飛騨の名匠の浮彫の 葡萄のかげにきて見れば 菩提の寺の冬の日に 刀悲しみ鑿愁ふ ほられて薄き葡萄葉の 影にかくるゝ栗鼠よ 姿ばかりは隠すとも かくすよしなし鑿の香は うしほにひゞく磯寺の かねにこの日の暮るゝとも 夕闇かけてたゝずめば こひしきやなぞ甚五郎

「若菜集」島崎藤村(青空文庫)

名文

まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり

「初恋」の第一連。髪を結い上げたばかりという一点で少女の年頃をとらえ、林檎畑の一場面に淡い恋を封じ込めた、近代抒情詩の原点。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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