誓之巻(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
病床の枕辺で交わす誓い
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 7,857字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
肺を病む娘ミリヤアドと、彼女を案じる青年「予」(上杉)、看病する高津の三人を描いた初期の悲恋小説。本文末に「明治三十年一月」とある。団欒、石段、菊の露、秀を忘れよ、東枕、誓の六つの章からなる。会話中心の文体で、病の進む娘の姿と、残される者への心配が描かれる。鏡花が泉鏡太郎として修業を積んでいた、観念小説期の作品に位置づけられる。
あらすじ
夏の半ば、ミリヤアドの病は一度は癒えたかに見え、「予」(上杉新)は転地のために汽車へ向かう。やがて秋に病は重くなり、出京した上杉に、看病する高津が、石段を上がれなくなった日の医者の宣告や、熱と痰の苦しみを話す。ミリヤアドは、自分がいなくなったあとの上杉が、仇を憎んで殺そうとしたり、自ら死を選んだりしないかと案じ、「名を揚げ家を起こして、秀を忘れて」と常に願っているという。東枕の床に臥した彼女は、もう耳が遠く、息も絶え絶えである。凩の吹く夜、枕辺に伏した予に、ミリヤアドは「私なくなりますと、あなたどうします」と問い、秀のことを思わず勉強するよう頼む。予は母のようにも見える彼女の面影に涙し、誓えというなら誓うと言って泣く。
登場人物
- 予(上杉新) 語り手。ミリヤアドを深く慕う青年
- ミリヤアド 肺を病む娘。上杉の行く末を案じている
- 高津 ミリヤアドを看病する、世話好きな女性
冒頭部(原文より)
後の日のまどいは楽しかりき。 「あの時は驚きましたっけねえ、新さん。」 とミリヤアドの顔嬉しげに打まもりつつ、高津は予を見向きていう。ミリヤアドの容体はおもいしより安らかにて、夏の半一度その健康を復せしなりき。 「高津さん、ありがとう。お庇様で助かりました。上杉さん、あなたは酷い、酷い、酷いもの飲ませたから。」 と優しき、されど邪慳を装える色なりけり。心なき高津の何をか興ずる。
「誓之巻」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「どうぞ、早く、よくなって、何にも、ほかに申しません。」 ミリヤアドは目を塞ぎぬ。また一しきり、また一しきり、刻むがごとき戸外の風。 予はあわただしく高津を呼びぬ。二人が掌左右より、ミリヤアドの胸おさえたり。また一しきり、また一しきり大空をめぐる風の音。 「ミリヤアド。」 「ミリヤアド。」 目はあきらかにひらかれたり。また一しきり、また一しきり、夜深くなりゆく凩の風。 神よ、めぐませたまえ、憐みたまえ、亡き母上。
「誓之巻」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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