花ごもり(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
咲かない花の恋
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 13,184字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
樋口一葉が1894年(明治27)2月に『文學界』へ連載した短編。幼なじみとして育った青年と、孤児の従妹との間の淡い思いが主題になる。そこへ、息子の出世を望む母の思惑が影を落とす。題の「花ごもり」は、咲く前の蕾にこもる花のこと。
あらすじ
本郷に母子で静かに暮らす瀬川與之助は、法学校を出て出版社に勤める青年である。同居する従妹のお新は、幼くして両親を失い八つの歳から瀬川家に養われた十八の娘で、與之助を兄のように慕い、いつか添うことをひそかに夢みている。與之助もまたお新に情を寄せていたが、五十を過ぎた母お近は、息子の立身出世を願い、富裕な次官・田原家との縁組こそその道と考える。田原の令嬢は年始の歌留多で與之助を見初めており、お近は「鬼の伯母」となってでも二人を裂き、この縁を進めようと決意する。妻の縁故で世に出ることを潔しとせず、自らの力で身を立てたい與之助は母と衝突し、田原もお新も嫌だと言い放つ。だが母は旧知の月琴の師・お辰と謀って外堀を埋め、與之助は手玉に取られて身動きが取れなくなる。二人はさらにお新を遠ざけようと奉公口を用意する。行き先を選ばされたお新は、華族の奥勤めを退けて、甲斐の田舎へ引きこもる画家・黒澤のもとを望む。絵を学びたい――恋しいときに與之助の姿を描いて心を慰めたいがための願いであった。それを陰に聞いた與之助は一人涙する。やがてお新は、上野発の朝一番の汽車で、秘めた思いを胸にただ一人旅立っていく。
登場人物
- 瀬川與之助 法学校を出て出版社に勤める青年。従妹のお新への情と、立身を望む母の意向とのあいだで板挟みになる
- お新 與之助の従妹。八つで瀬川家に引き取られた十八の孤児の娘。與之助を慕うが、絵を学ぶため甲斐の画家のもとへ発つ
- お近 與之助の母。五十過ぎ。息子の立身を願い、田原家との縁組を進めて二人を裂こうとする
- お辰 谷中に住む月琴の師で瀬川家の旧友の未亡人。田原家との縁組の橋渡しをする
冒頭部(原文より)
本郷の何處とやら、丸山か片町か、柳さくら垣根つゞきの物しづかなる處に、廣からねども清げに住なしたる宿あり、當主は瀬川與之助とて、こぞの秋山の手の去る法學校を卒業して、今は其處の出版部とやら編輯局とやらに、月給なにほど成るらん、靜かに青雲の曉をまつらしき身の上、五十を過ぎし母のお近と。
「花ごもり」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
裏面の交通やう/\はじまりて、お近が胸にはひや/\とする事の無きにもあらねば、これは一日もはやくたゝせたき思ひ、かゝる時は是非無差別の日のかげにお近が念慮の勝をしめて、いよ/\明日のあけの一番に、上野發の滊車にてといふ段に成りぬ、お新は何ごとを思ふらん、言はぬおもひは人しるによしなけれど、一語にても意味の有りける詞の與之助には利き刄にてゑぐらるゝやうに胸のくるしく、寢られぬ夜半の殘燈のかげ薄れゆくまゝに、やがては鳥もなくらん、かねも驚かすべし、いざと敷居をまたぐ時、滊車の笛の音ひゞく時、やう/\烟りにかげ消えゆくとき、いかならんと思ひやる與之助より、さし手が磯に千鳥を友として、かなしき戀のおもかげを描くらん、不憫やお新が心の内
「花ごもり」樋口一葉(青空文庫)
原文を読む
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