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外科室(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

手術室で守ろうとする秘密

  • 恋愛
  • 心理

泉鏡花 1895年(明治28年)6月 「文芸倶楽部」

文字数
7,321字
読了目安
約15分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1895年(明治28年)6月、『文芸倶楽部』に発表された泉鏡花初期の短編小説。同年の『夜行巡査』とともに、鏡花が作家として認められる契機となった。画家の「予」が友人の医師・高峰に頼んで、貴船伯爵夫人の手術に立ち会うところから始まる。夫人は、麻酔によって心の秘密を口にしてしまうことを恐れ、周囲の説得にも応じようとしない。病院に集まる上流社会の人々、緊張する立会人、平静を保つ医師を対照的に描き、手術室という限られた空間に視線を集めている。文語の引き締まった語りと短い会話が、身体に施す処置と内面の秘密という二つの領域を結びつける。発表当時には「観念小説」として評価される一方、構成や人物のあり方をめぐって批判も起こった。社会の常識や身分と、人の心に属するものとの関係を、凝縮した場面から問う作品である。

あらすじ

画家である「予」は、友人の医学士・高峰にせがんで、貴船伯爵夫人の外科手術を見学することになる。夫人は病巣を取り除く手術にあたり、麻酔をかければ譫言で秘密を漏らすかもしれないと恐れ、頑なに麻酔を拒む。やむなく執刀医の高峰が麻酔なしでメスを入れようとしたその瞬間、夫人は高峰の手を強く握り、「あなたは、私を知りますまい」と問いかける。実は九年前、学生だった高峰と夫人は、植物園で一度すれ違ったに過ぎない間柄だった。夫人は高峰のメスに手を添えて自ら胸を切る。高峰が「忘れません」と答えると、夫人は微笑みを浮かべて倒れる。高峰は妻を娶ることのないまま、夫人と同じ日に相前後して世を去るのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師たるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰をしいて、某の日東京府下の一病院において、渠が刀を下すべき、貴船伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを余儀なくしたり。その日午前九時過ぐるころ家を出でて病院に腕車を飛ばしつ。直ちに外科室の方に赴くとき、むこうより戸を排してすらすらと出で来たれる華族の小間使とも見ゆる容目よき婦人二、三人と、廊下の半ばに行き違えり。

「外科室」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

園を出ずれば丈高く肥えたる馬二頭立ちて、磨りガラス入りたる馬車に、三個の馬丁休らいたりき。その後九年を経て病院のかのことありしまで、高峰はかの婦人のことにつきて、予にすら一言をも語らざりしかど、年齢においても、地位においても、高峰は室あらざるべからざる身なるにもかかわらず、家を納むる夫人なく、しかも渠は学生たりし時代より品行いっそう謹厳にてありしなり。予は多くを謂わざるべし。青山の墓地と、谷中の墓地と所こそは変わりたれ、同一日に前後して相逝けり。語を寄す、天下の宗教家、渠ら二人は罪悪ありて、天に行くことを得ざるべきか。

「外科室」泉鏡花(青空文庫)

名文

「痛みますか」 「いいえ、あなただから、あなただから」

麻酔を拒んだ伯爵夫人と執刀医が手術台で交わす一往復。九年前の一瞬の恋を秘めた二人の関係が、この短い応答で明かされる。

原文を読む

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