義血侠血(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
街道で出会う水芸師と馭者
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 33,049字
- 読了目安
- 約1時間6分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 富山県
- 石川県
この作品について
1894年(明治27年)11月1日から30日まで、『読売新聞』に連載された泉鏡花初期の小説。師の尾崎紅葉による添削を経て発表された。越中高岡と石動を結ぶ乗合馬車の場面から始まり、人力車との競争や客たちの掛け合いが、街道の賑わいを伝える。水芸で旅をする滝の白糸と、馬車を御す若い村越欣弥との出会いを軸に、人の心意気や、暮らしと学問を支える金銭の問題を扱う。身ぶりや服装を鮮やかに描く文章と、気風のよい会話が、人物を目の前にいるように浮かび上がらせる。翌1895年には川上音二郎一座が『滝の白糸』と改題して舞台化し、以後、新派の演目や映画としても親しまれた。舞台で知られる人物たちが、もとはどのような語りと風俗描写のなかに現れたのかを知ることもできる、鏡花と演劇との結びつきをたどる一作である。
あらすじ
越中高岡の街道で、旅回りの水芸太夫・滝の白糸は、貧しいながらも学問を志す馭者・村越欣弥と出会う。その志に打たれた白糸は、自らの稼ぎで欣弥の東京遊学の学資を援助することを申し出て、二人は将来を誓い合う。ある夜、白糸は約束の学資を金主から借り受けようとする道すがら賊に襲われ、なけなしの金を奪われてしまう。窮した白糸はやむにやまれず、通りかかった屋敷に忍び込むが、家人に見咎められて揉み合いとなり、ついには主人夫婦を手にかけて逃走する。三年後、白糸は殺人の廉で金沢地方裁判所の法廷に立たされるが、そこで自分を裁く検事代理こそ、立派に出世した欣弥その人であることを知る。私情を殺して恩人を起訴した欣弥は、白糸に死刑を求刑して有罪を勝ち取るが、その夜、恩人と冥界を隔てた身を嘆いて自ら命を絶つのだった。
登場人物
- 滝の白糸(水島友) 旅回りの水芸太夫。馭者の欣弥に学資を援助し、その後の悲劇を招く本作の主人公
- 村越欣弥 貧しい馭者から検事代理へと出世した青年。恩人である白糸を裁く運命に苦しむ
- 屋敷の主人 白糸が金策に踏み込んだ屋敷の当主。とっさに出刃で刺されて命を落とす
- 内儀 屋敷の主人の妻。夫を殺された衝撃で白糸に組みかかり、もみ合いの末に落命する
冒頭部(原文より)
越中高岡より倶利伽羅下の建場なる石動まで、四里八町が間を定時発の乗り合い馬車あり。賃銭の廉きがゆえに、旅客はおおかた人力車を捨ててこれに便りぬ。車夫はその不景気を馬車会社に怨みて、人と馬との軋轢ようやくはなはだしきも、わずかに顔役の調和によりて、営業上相干さざるを装えども、折に触れては紛乱を生ずることしばしばなりき。
「義血侠血」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
これに次ぎて白糸はむぞうさにその重罪をも白状したりき。裁判長は直ちに訊問を中止して、即刻この日の公判を終われり。検事代理村越欣弥は私情の眼を掩いてつぶさに白糸の罪状を取り調べ、大恩の上に大恩を累ねたる至大の恩人をば、殺人犯として起訴したりしなり。さるほどに予審終わり、公判開きて、裁判長は検事代理の請求は是なりとして、渠に死刑を宣告せり。一生他人たるまじと契りたる村越欣弥は、ついに幽明を隔てて、永く恩人と相見るべからざるを憂いて、宣告の夕べ寓居の二階に自殺してけり。
「義血侠血」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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