暁月夜(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
独り住みを通す令嬢
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 14,064字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
樋口一葉が1893年(明治26)2月に雑誌『都の花』へ発表した短編。縁談をすべて断って独りで暮らす美貌の令嬢のもとへ、理由を知ろうとする文学書生が庭男に身をやつして近づく。身分と家柄がからむ人間関係を、題名の暁の月に重ねて描く。
あらすじ
江戸川べりに屋敷を構える華族・香山家の令嬢一重は、比類なき美貌をもちながら、縁談をことごとく退けて独り住みを願い、世上に変わり者と噂される二十歳の娘である。牛込に下宿する文学書生・森野敏は、その独り住みの理由を知りたい一心から令嬢に近づこうと、素性を隠して香山家の庭男「吾助」に住み込む。庭ごしに令嬢を仰ぐばかりの敏は、令嬢を慕う九歳の弟・甚之助を手なずけ、少年を使いに恋文を「歌」といつわって令嬢に届けさせる。やがて敏は、継母が令嬢をつめたく扱う理由を知る。一重は、子爵の妹だった姫が身分違いの馬廻り・六三と交わした許されぬ恋の末に生まれた子であった。二人の仲は兄である子爵に露顕し、六三は屋敷を退けられ、身重の姫は世をはかなんで一重を産み落として散り、六三もまた姫の形見の緋縮緬を身に巻いて大川に身を投げていた。出生の恥を知る一重は、家名の汚れを一人背負って独り住みを貫いてきたのである。世を避けて鎌倉の別荘へ移ろうとする令嬢のもとへ、敏は発つ前夜に忍び入り、思いを打ち明ける。令嬢は一生に一度の懺悔として身の素性を語り明かし、暁の月のもと、君は都にわれは鎌倉にと、それぞれの道へ別れていく。
登場人物
- 香山一重 華族・香山家の令嬢。比類なき美貌ながら縁談を拒んで独り住みを貫く。身分違いの恋に散った母の忘れ形見という出生の秘密を抱える
- 森野敏 牛込に下宿する文学書生。二十四歳。令嬢に近づこうと庭男「吾助」に身をやつす
- 甚之助 香山家の九歳の次男。姉の一重を慕い、敏と令嬢の文の使いをつとめる
- 六三 一重の実父にあたる下士(馬廻り)。姫との身分違いの恋の末、姫の形見を抱いて大川に身を投げた
冒頭部(原文より)
櫻の花に梅が香とめて柳の枝にさく姿と、聞くばかりも床しきを心にくき獨りずみの噂、たつ名みやび男の心を動かして、山の井のみづに浮岩るヽ戀もありけり、花櫻香山家ときこえしは門表の從三位よむまでもなく、同族中に其人ありと知られて、行く水のながれ清き江戸川の西べりに、和洋の家づくり美は極めねど。
「暁月夜」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
我が生涯の此樣に悲しく、人に言はれぬ物を思ふも、淺ましき戀ゆゑぞかし、我れには有らぬ親の昔し、語るまじき事と我れも秘め、父君は更なり母君にも家の耻とて世に包むを、聞かせ參らするではなけれど、一生に一度の打明け物がたり、聞て給はれ憂き身の素性と、此處に涙を盡くして語り明せば、夢とや言はん春の夜あげ方ちかく、鳥がね空に聞えて扨も忙しなし、君は都に我れは鎌倉に、引はなれて又何時かは逢ふべき、定離の例しを此處に見れば、戀は一人ぞ安かりける、何事も言はじ思はじ、仰せられても給はるなとて、曉の月に影を別ちしが、これより姫は如何に成りけん、扨も敏は如何に成りけん、つれなく見えし有明の月の形見を空に眺めて、(曉ばかり)と呌きけんか知らず。
「暁月夜」樋口一葉(青空文庫)
原文を読む
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