雪の日(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
雪の日の回想
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 3,199字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
樋口一葉が1893年(明治26)3月に『文學界』へ発表した短編。山里の名家に生まれ、伯母に育てられた娘が、十五の冬の雪の日を一人称で振り返る形をとる。降りしきる雪の描写と回想の語りが、作者の自伝的な色合いを帯びた抒情的な作品である。
あらすじ
山里の名家・薄井の家にただ一人生れたお珠は、早くに父母を失い、同じく夫に先立たれて戻ってきた伯母の手で、実の子にまさる慈しみを受けて育てられる。十五の冬、東京から来た心優しい教師・桂木一郎に妹のように可愛がられるうち、二人が想い合っているという噂が村に立つ。噂を聞いた伯母は、薄井の家は他郷の人と縁を結ばぬ定めであり、素性の知れぬ桂木とは添わせられぬと、往来も稽古も一切絶つよう厳しく言い渡す。育ての親にさえ身の潔白を疑われたと感じたお珠は、口惜しさに泣き暮らす。年が明けた正月七日、伯母が親族へ年始に出かけた留守、折からの大雪のなか、お珠は恋しさに堪えかねて傘を借り、師のもとへと家を出てしまう――それが取り返しのつかぬ過ちとなった。故郷も伯母も捨てて都に出たお珠のもとに、伯母がわが身を嘆きつつその秋に世を去ったとの便りが届く。今はただ、つれない良人に操を守り、人知れぬ節を保つばかりだと、雪の日の悔恨を静かに語り終える。
登場人物
- お珠(薄井珠) 山里の名家・薄井の家にただ一人生れた娘。育ての伯母に背き、雪の日に師のもとへ走って身を誤る本作の語り手
- 伯母君 夫に先立たれ、三歳のお珠を実子以上の慈愛で育てた人。噂を案じてお珠を厳しく戒め、後にお珠の出奔を嘆いて没する
- 桂木一郎 東京出身の学校教師。三十三歳。お珠を妹のように可愛がり、噂の相手となる
冒頭部(原文より)
見渡すかぎり地は銀沙を敷きて、舞ふや蝴蝶の羽そで軽く、枯木も春の六花の眺めを、世にある人は歌にも詠み詩にも作り、月花に並べて称ゆらん浦山しさよ、あはれ忘れがたき昔しを思へば、降りに降る雪くちをしく悲しく、悔の八千度その甲斐もなけれど、勿躰なや父祖累代墳墓の地を捨てゝ、養育の恩ふかき伯母君にも背き。
「雪の日」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
かけても思ひ寄らざりしを、行方なしや迷ひ、窓の呉竹ふる雪に心下折れて我れも人も、罪は誠の罪に成りぬ、我が故郷を離れしも我が伯母君を捨てたりしも、此雪の日の夢ぞかし。今さらに我が夫を恨らみんも果敢なし、都は花の見る目うるはしきに、深山木の我れ立ち並らぶ方なく、草木の冬と一人しりて、袖の涙に昔しを問へば、何ごとも総べて誤なりき、故郷の風の便りを聞けば、伯母君は我が上を歎げき歎げきて、其歳の秋かなしき数に入り給ひしとか、悔こそ物の終りなれ、今は浮世に何事も絶えぬ、つれなき人に操を守りて知られぬ節を保たんのみ、思へば誠と式部が歌の、ふれば憂さのみ増さる世を、知らじな雪の今歳も又、我が破れ垣をつくろひて、見よとや誇る我れは昔しの恋しき物を
「雪の日」樋口一葉(青空文庫)
原文を読む
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