清心庵(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
山の尼寺に隠れ住む二人
- 心理
- 恋愛
- 文字数
- 12,495字
- 読了目安
- 約25分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1897年(明治30年)7月、雑誌『新著月刊』に発表された初期の中編。山中の尼寺・清心庵で、尼君の留守にひっそりと暮らす少年「予」と、里の高い身分の家から身を寄せた若い奥方・摩耶の物語である。山番の爺や、茸狩りの人々、駕籠を携えて迎えに来た女中たちが、山の静けさをかき乱す。前半は少年の目で見た山の描写、後半は女中の長い台詞による説明という二部構成で、のちの鏡花に通じる母性への思慕が早くも濃く現れている。
あらすじ
山の孤家、清心庵。尼君が市へ出かけた留守に、少年の「予」は、摩耶と静かに暮らしている。昼過ぎ、茸を探しに山へ出た予は、里の高い身分の家の駕籠が庵へ向かったと、山番の爺から聞く。庵の前には駕籠が置かれ、中には摩耶を迎えに来た女中たちがいる。予は山の木陰に身を隠し、やがて、昔から予を知る年嵩の女中に見つかり、事情を問いつめられる。女中は、尼君が行脚に出る前に、御新造は私の庵にいるから案じるなと知らせていったこと、五人がかりでも摩耶を連れ戻せなかったことを語る。摩耶は「旦那様は私が居なくても可いけれど、千ちゃんは一緒に居ないと死んでしまうから」と言って、帰ろうとしなかったという。女中たちは空の駕籠を担いで帰り、予が庵へ駆け戻ると、衝立の蔭に摩耶が立っていた。
登場人物
- 予(千) 山の尼寺で暮らす少年。摩耶と離れることができない
- 摩耶 里の高い身分の家の奥方。庵に身を寄せて帰ろうとしない
- 尼君(清心) 八十にもなる徳の高い尼。庵の主
- 山番の爺 山の様子を伝える老人
- 女中 摩耶を迎えに来た里の家の女中。予を幼いころから知る
冒頭部(原文より)
米と塩とは尼君が市に出で行きたまうとて、庵に残したまいたれば、摩耶も予も餓うることなかるべし。もとより山中の孤家なり。甘きものも酢きものも摩耶は欲しからずという、予もまた同じきなり。 柄長く椎の葉ばかりなる、小き鎌を腰にしつ。籠をば糸つけて肩に懸け、袷短に草履穿きたり。かくてわれ庵を出でしは、午の時過ぐる比なりき。
「清心庵」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
と勢よく框に踏懸け呼びたるに、答はなく、衣の気勢して、白き手をつき、肩のあたり、衣紋のあたり、乳のあたり、衝立の蔭に、つと立ちて、烏羽玉の髪のひまに、微笑みむかえし摩耶が顔。筧の音して、叢に、虫鳴く一ツ聞えしが、われは思わず身の毛よだちぬ。 この虫の声、筧の音、框に片足かけたる、その時、衝立の蔭に人見えたる、われはかつてかかる時、かかることに出会いぬ。母上か、摩耶なりしか、われ覚えておらず。夢なりしか、知らず、前の世のことなりけむ。
「清心庵」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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