雪の上の足跡(堀辰雄)のあらすじ・登場人物
雪の家で語り合う主と学生
- 文字数
- 5,663字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 長野県
この作品について
堀辰雄が1946年(昭和21)3月の雑誌「新潮」に発表した作品で、雪に閉ざされた信濃追分の家を舞台にした「主」と「学生」の対話だけで組み立てられている。雪の林を歩いて帰ってきた学生と、病がちで冬は外へ出なくなった主が、狐や兎の足跡、宿場に残る遊女の墓の話から語り始め、チェーホフの短編「学生」とルカ伝のペテロの場面、釈迢空の『死者の書』、凡兆の句へと話題を移していく。若くして亡くなった詩人立原道造の思い出もたびたび呼び起こされる。主の言葉には、西洋の物語にくらべて日本の古い物語が人を無気力にさせる、という学生の問いかけに答えながら、自分の生き方を省みる口ぶりがある。戦後まもなく、病臥がちになった時期の作品。
あらすじ
雪だらけになって林から帰った学生に、主は狐の足跡は一すじの点線のようだと教える。話は、宿場の遊女の墓を舐める老狐の昔話から、古駅には昔話が少ないこと、傷ついた鹿が石崖を跳び越えていった宿の主人の記憶へと移る。学生がチェーホフの短編「学生」に感動したことを語ると、主は聖書のルカ伝を開いてペテロが鶏の鳴く前に三度イエスを否んで泣く場面を読む。学生は、日本の古い物語は美しくても、運命的なものの前で人を無気力にさせると言い、主はこれからはそれと戦うのだと答える。夕日が射すと、学生は『死者の書』の落日と、フランシス・トムスンの「落日頌」の十字架を思い浮かべ、主は凡兆の「鷲の巣の楠の枯枝に日は入りぬ」をあげる。主は昔の雑記帳の表紙の雪の山小屋の絵や、立原道造と遊んだ頃の夢を思い出し、雪の上に一すじだけ残る足跡を、自分のものか立原のものかと思い描く。学生は寒くなったからと窓を閉めようとする。
登場人物
- 主 信濃の古い宿場に住む作家
- 学生 主のもとに滞在している若者
冒頭部(原文より)
主 やあ、どこへ行ったかと思ったら、雪だらけになって帰って来たね。 学生 林の中を歩いて来ました。雑木林の中なぞは随分雪が深いのですね。どうかすると、腰のあたりまで雪の中に埋まってしまいます。獣の足跡が一めんについているので、そんな上なら大丈夫かとおもって、足を踏みこむと、その下が藪になっていたりして、飛んだ目に逢ったりしました。
「雪の上の足跡」堀辰雄(青空文庫)
末尾部(原文より)
……だが、きょうは、君のおかげで、枯木林のなかの落日の光景がうかぶ。雪の面には木々の影がいくすじとなく異様に長ながと横わっている。それがこころもち紫がかっている。どこかで頬白がかすかに啼きながら枝移りしている。聞えるものはたったそれだけ。(そのまま目をつぶる。)そのあたりには兎やら雉子やらのみだれた足跡がついている。そうしてそんな中に雑じって、一すじだけ、誰かの足跡が幽かについている。それは僕自身のだか、立原のだか……。 学生 急に寒くなってきましたね。もう窓をしめましょうか。
「雪の上の足跡」堀辰雄(青空文庫)
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