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「ケルトの薄明」より(イェイツ)のあらすじ・登場人物

目ざめたまま見る妖精の夢

  • 幻想
  • 翻訳

イェイツ 訳者 芥川龍之介 1914年(大正3年)4月 「新思潮」

文字数
4,146字
読了目安
約8分
表記
新字旧仮名
種別
随筆

この作品について

アイルランドの詩人W・B・イェイツが、土地の人々から聞いた妖精や幽霊の話と、自らの幻視の体験をつづった散文集『ケルトの薄明』(1893年刊、のち増補)から、芥川龍之介が三章を選んで訳したもの。東京帝国大学在学中の1914年(大正3年)4月、第3次『新思潮』に柳川隆之介の署名で発表した。宝石を食らう猿の幻を描く「宝石を食ふもの」、砦に埋もれた宝をめぐる一族の言い伝え「三人のオービユルンと悪しき精霊等」、海辺の洞窟で精霊の女王を呼び出す「女王よ、矮人の女王よ、我来れり」の三章を、漢語の多い引き締まった文体で写している。

あらすじ

「宝石を食ふもの」では、語り手の「自分」が目ざめたまま見る夢の中で、胸壁をめぐらした底なしの暗い穴と、その縁で掌の宝石を飽くことなくむさぼる無数の猿を見る。それはケルト民族の地獄であり、美と奇異を求めてやまない芸術家の地獄、自分自身の地獄であった。「三人のオービユルンと悪しき精霊等」は、スリイヴ・リイグに近い砦に埋もれた宝の言い伝えを語る。宝は悪い精霊の一群に守られ、いつかオービユルン家のものになるが、それまでに一族の三人が宝を見つけて死ななければならないという。最初の一人は毛深い犬のようなものに引き裂かれ、二人目は櫃の中に何か恐ろしいものを見て狂い死にし、いま三人目が憔悴した顔で砦の土を掘りつづけている。「女王よ、矮人の女王よ、我来れり」では、語り手が中年の男と、怪し火を見逃さない力をもつ若い娘とともに、西の海辺の洞窟を訪れる。夢幻に入った娘は、岩の中の音楽や踊る侏人の群れを見、語り手もまた洞窟から現れた丈の高い女王の姿を見る。娘を介して問いを重ねると、女王は「我らは形をかへる」と答えるが、なおも本性や目的を問われると苦しげになり、幻の砂の上に「余りに多くわれらが上を知らむと求むる勿れ」と書き記す。語り手は見聞きしたことを理論で傷つけずに伝えると断り、いかなる理論よりも夢の門の響きを愛すると結ぶ。

冒頭部(原文より)

        宝石を食ふもの  平俗な名利の念を離れて、暫く人事の匆忙を忘れる時、自分は時として目ざめたるまゝの夢を見る事がある。或は模糊たる、影の如き夢を見る。或は歴々として、我足下の大地の如く、個体の面目を備へたる夢を見る。其模糊たると、歴々たるとを問はず、夢は常に其赴くが儘に赴いて、我意力は之に対して殆ど其一劃を変ずるの権能すらも有してゐない。夢は夢自らの意志を持つて居る。そして彼方此方と揺曳して、其意志の命ずるまゝに、われとわが姿を変へるのである。  一日、自分は隠々として、胸壁をめぐらした無底の大坑を見た。坑は漆々然として暗い。胸壁の上には無数の猿がゐて、掌に盛つた宝石を食つてゐる。宝石は或は緑に、或は紅に輝く。猿は飽く事なき饑を以て、ひたすらに食を貪るのである。

「「ケルトの薄明」より」イェイツ(青空文庫)

末尾部(原文より)

 自分は是等の事を出来得る限り正確に話すのである。そして又話を傷けるやうな、何等の理論をも之に加へない。畢竟するにすべての理論は、憐む可きものである。そして自分の理論の大部は既に久しい以前に其存在を失つて仕舞つてゐる。  自分は、如何なる理論よりも、扉を啓く「象牙の門」の響を熱愛してゐる。そして又、其薔薇を撒く戸口をすぎたものゝみが、「角の門」の遠きかがやきを捕へ得る事を信じてゐる。われらがもし、占星者リリイがウインゾアの森に発した叫び―― REGINA, REGINA PIGMEORUM, VENI(女王よ。矮人の女王よ。我来れり。)の声をあげ、彼と共に神は夢に幼な児を訪れ給ふ事を記憶するなら、それは恐らくわれらの為に幸を齎すであらう。丈高く、光まばゆき女王よ。願くは来りて、再、汝が黒める髪にかざせしほの暗き花を見せしめよ。

「「ケルトの薄明」より」イェイツ(青空文庫)

名文

平俗な名利の念を離れて、暫く人事の匆忙を忘れる時、自分は時として目ざめたるまゝの夢を見る事がある。

イェイツ『ケルトの薄明』所収「宝石を食ふもの」の書き出し。名利を離れた静かな時に、醒めたまま夢を見るという幻想を語る。

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