イーリアス(ホメロス)のあらすじ・登場人物
歌え、アキレウスの怒りを
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 370,505字
- 読了目安
- 約12時間21分
- 表記
- 旧字旧仮名
この作品について
古代ギリシアの詩人ホメロスの作と伝えられる、西洋文学最古の叙事詩のひとつ「イリアス」を、「荒城の月」の作詞で知られる詩人・土井晩翠が七五調の文語定型詩で全二十四歌訳し上げたもの(1940年、冨山房刊)。トロイア戦争の十年目、総大将アガメムノーンに名誉を傷つけられた英雄アキリュウス(アキレウス)の怒りを軸に、親友パトロクロスの死、トロイアの将ヘクトールとの決戦、そして老王プリアモスへの屍の返還までの数十日間を描く。神々が両軍に肩入れして争う壮大な世界と、戦う者たちの誇りと悲しみが、各歌の要旨と詳しい訳注を添えた晩翠の雄渾な調べで語られる。晩翠は続いて「オヂュッセーア」も訳している。
あらすじ
トロイア戦争の十年目。アポローンの祭司クリュセースは、アカイア軍に捕らえられた娘を取り戻そうと莫大な贖いを携えて陣営を訪ねるが、総大将アガメムノーンに辱められて追い返される。祭司の祈りに応えたアポローンは陣中に疫病を放ち、予言者カルハースがその原因を明かす。アガメムノーンはしぶしぶ娘を返すが、代わりに勇将アキリュウスの得た女ブリイセーイスを奪い取った。屈辱に怒ったアキリュウスは部下とともに戦いから身を引き、母である海の女神テチスを通じて、自分の名誉が雪がれるまでトロイア勢に勝たせてほしいと天王ヂュウスに願う。以後、戦場は神々の思惑を映して大きく揺れ動く。トロイアの王子パリスとヘレネーの夫メネラオスの一騎討ちは女神の手で決着を阻まれ、休戦は破られて両軍がふたたび激突する。トロイアの総帥ヘクトールは城内に戻って妻アンドロマケーと幼い子に別れを告げ、戦場へ帰ってゆく。やがてアカイア軍は船陣まで押し戻され、アガメムノーンは莫大な贈り物を約してオヂュシュウスらを使者に立てるが、アキリュウスは頑として応じない。ついにトロイア勢が防壁を破って船に火をかけようとしたとき、アキリュウスの親友パトロクロスがその武具を借りて出陣し、敵を城下まで追い返す。しかしパトロクロスはアポローンに打たれ、ヘクトールに討ち取られた。悲嘆に沈んだアキリュウスはアガメムノーンと和解し、鍛冶の神ヘープァイストスが鍛えた新しい武具をまとって戦場へ戻る。トロイア勢を斬り伏せて城門へ迫った彼は、城壁のまわりを逃げるヘクトールを追いつめて討ち、その屍を戦車に結びつけて引きずりまわした。パトロクロスの葬儀ののちも屍を辱めつづけるアキリュウスのもとへ、神々の計らいで老王プリアモスがひそかに訪れ、息子を殺したその手に口づけして屍の返還を乞う。故郷の老父を思って共に泣いたアキリュウスは屍を返し、休戦を約す。詩はトロイアで営まれるヘクトールの葬儀で結ばれる。
登場人物
- アキリュウス アカイア軍随一の勇将。名誉を奪われて戦いを退く
- アガメムノーン アカイア軍の総大将。アキリュウスと争う
- パトロクロス アキリュウスの無二の親友
- ヘクトール トロイアの王子で総帥。妻アンドロマケーに別れを告げ戦う
- プリアモス トロイアの老王。息子の屍を求めて敵陣へ赴く
- テチス アキリュウスの母である海の女神
冒頭部(原文より)
神女よ歌へ、アキリュウス・ペーレーデース凄じく 燃やせる瞋恚――その果はアカイア軍におほいなる 禍來たし、勇士らの猛き魂冥王に 投じ、彼らの屍を野犬野鳥の餌と爲せし すごき瞋恚を(斯くありてヂュウスの神意滿たされき) アートレ,デース、民の王、および英武のアキリュウス、 猛けり爭ひ別れたる日を吟詠の手はじめに。
「イーリアス」ホメロス(青空文庫)
末尾部(原文より)
墓を築きてたち歸り、更に再び集りて、 ヂュウスのめづるプリアモス、トロイア王の宮殿の 中に弔慰の盛なる美なる宴飮催しぬ。 駿馬を御するヘクト,ルの葬禮斯くぞ營まる。
「イーリアス」ホメロス(青空文庫)
名文
薔薇色なす指持てる曙の神女のいづる時、
ホメロスが繰り返し用いる「薔薇色の指の曙」という決まり文句(枕詞的な形容)を、土井晩翠が七五調に移した一行。叙事詩の朝の訪れを告げる。
風は樹葉を吹き去りて大地に散らし、森林は 春の新たに囘る時他をまた芽出し長ぜしむ。 斯く人間の世代も時に生れて時にやむ。
第六歌、戦場で素性を問われた勇士グラウコスの答え。人の世代を散っては芽吹く木の葉にたとえた、西洋文学で最も知られる比喩のひとつ。
原文を読む
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