日本その日その日(モース)のあらすじ・登場人物
明治の日本を写した博物学者
- 翻訳
- 文字数
- 479,779字
- 読了目安
- 約16時間
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 北海道
- 栃木県
- 東京都
- 神奈川県
- 京都府
この作品について
大森貝塚の発見で知られるアメリカの動物学者エドワード・シルヴェスター・モースが、1877年から三度にわたる滞日の日記をもとにまとめ、1917年にボストンで刊行した『Japan Day by Day』の全訳。訳者の石川欣一はモースの弟子だった動物学者石川千代松の子で、1929年に科学知識普及会から上下2巻で出した。横浜に上陸した日の印象に始まり、日光への旅、江ノ島の臨海実験所、東京大学での講義、北海道や九州への採集旅行、京都や瀬戸内海での陶器集めまでを日を追って記す。原著には自筆のスケッチ777点が添えられ、文中には図の番号が残る。明治初めの庶民の暮らしや手仕事を、博物学者の目で細かく書き留めた記録である。
あらすじ
冒頭には訳者の父でモースの弟子だった石川千代松の序、訳者の言葉、モースの緒言が置かれる。緒言でモースは、腕足類の研究のために来日したが、毎日欠かさずつけた三千五百頁の日記を、友人ビゲロウの強い勧めで本にまとめたいきさつを語る。一八七七年六月、横浜に着いたモースは、櫓を漕ぐ舟子や人力車、町の家並みに目を見張る。日光への旅で初めて田舎を知り、東京大学に動物学の教授として招かれると、江ノ島に小さな臨海実験所を設けて漁師の持ってくる貝やヒトデを調べる。汽車の窓から見つけていた大森の貝塚を掘って縄文の土器を見つけ、その破片を一つ一つ写生する。一度帰国して翌年に戻ると、北海道へ渡ってアイヌの小屋を訪ね、函館の沖で曳網を行い、日本の冬を過ごしたのち、長崎・鹿児島など南方へ採集の旅に出る。大学では講義と試験に追われ、日本の学生や知識人との交際も深める。二年八か月ののち、一八八二年に三度目の来日を果たすと、ビゲロウやフェノロサとともに陸路で京都へ向かい、瀬戸内海をめぐって各地の窯場で陶器を集める。習慣と迷信、手紙の書き方、洞窟の調査、東京の暮らしの覚え書き、黒田侯の別荘での鷹狩など、目にしたものを絵入りで記録していく。最後にモースは、四十年前に見た日本人の正直さや礼儀を米国人の行いと対照してきたのは、日本から学ぶべきことが多いと信じるからだと述べて筆を置く。
登場人物
- モース 米国の動物学者。東京大学で教え、日本各地を旅して日記をつける
- ビゲロウ モースの友人の医師・美術収集家。本書の刊行を勧める
- フェノロサ 東京大学で教えた米国人。モースと陶器や絵画を探す
- 松村 モースの助手を務める日本人
- 宮岡恒次郎 モースが世話になった若い友人。のちに弁護士となる
- 竹中成憲 モースの旅に通訳として同行する友人
冒頭部(原文より)
サンフランシスコからの航海中のこまかいことや、十七日の航海を済ませて上陸した時のよろこびやは全部省略して、この日記は日本人を最初に見た時から書き始めよう。 我々が横浜に投錨した時は、もう暗かった。ホテルに所属する日本風の小舟が我々の乗船に横づけにされ、これに乗客中の数名が乗り移った。この舟というのは、細長い、不細工な代物で、犢鼻褌だけを身につけた三人の日本人――小さな、背の低い人たちだが、恐ろしく強く、重いトランクその他の荷物を赤裸の背中にのせて、やすやすと小舟に下した――が、その側面から櫓をあやつるのであった。我々を海岸まではこぶ二マイルを彼等は物凄い程の元気で漕いだ。そして、彼らは実に不思議な呻り声を立てた。お互に調子をそろえて、ヘイ ヘイチャ、ヘイヘイ チャというような音をさせ、時にこの船唄(若しこれが船唄であるのならば)を変化させる。彼等は、船を漕ぐのと同じ程度の力を籠めて呻る。彼等が発する雑音は、こみ入った、ぜいぜいいう、汽機の排出に似ていた。私は彼等が櫓の一と押しごとに費す烈しい気力に心から同情した。而も彼等は二マイルを一度も休まず漕ぎ続けたのである。
「日本その日その日」モース(青空文庫)
末尾部(原文より)
終に臨んで一言する。読者は日本人の行為が、しかも屡々我々自身のそれと、対照されたのを読んで、一体私は米国人に対して、どんな態度を取っているのかと不思議に思うかも知れぬ。私は我々が日本の生活から学ぶ可きところの多いことと、我々が我々の弱点のあるものを、正直にいった方が、我々のためになることを信じている。ボストンの警察署長、オーミアラ氏の言葉は、私に深い印象を与えた。彼は我国に対する最大の脅威は、若い男女の無頼漢的の行為であるといった。かるが故に私は対照として、日本人の行為をあげたのである。私の対照は、ひがんだ目で見たものではない。それ等は私が四十年前に見たところのものの、そのままの記述である。
「日本その日その日」モース(青空文庫)
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