史伝とは

分類
形式・ジャンル
読み
しでん

史料の考証にもとづいて、歴史上の実在の人物の生涯や事績を叙述する伝記的な文学。虚構を交えて人間の内面を描く歴史小説に対し、史料そのものに語らせる態度を重んじる。近代文学では、とりわけ森鴎外晩年の作品群を指す。鴎外は大正元年(1912年)の『興津弥五右衛門の遺書』以来、『阿部一族』などの歴史小説を書き継ぐなかで、評論「歴史其儘と歴史離れ」(大正4年)に見られるように史実の重みと向き合い、やがて考証の過程そのものを作品とする史伝へ進んだ。武鑑(江戸時代の大名や幕臣の名鑑)を集めるうちに「弘前医官渋江氏蔵書記」の蔵書印にたびたび出会ったことから、江戸末期の弘前藩の医官の生涯を掘り起こしたのが『渋江抽斎』(大正5年)で、「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」に連載された。続く『伊沢蘭軒』(大正5〜6年)、新聞連載の中断を経て「帝国文学」「アララギ」に書き継がれた『北条霞亭』と合わせて、史伝三部作と呼ばれる。幸田露伴が明の靖難の変を描いた『運命』(大正8年、「改造」創刊号)も史伝の最高峰と評され、鴎外を敬慕した永井荷風は、その影響のもとに外祖父の漢学者・鷲津毅堂らを描いた『下谷叢話』(大正13年初出、大正15年刊)を著している。

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