深刻小説とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- しんこくしょうせつ
観念小説とほぼ同時期の明治20年代の末、人間社会の暗黒や下層の人々の悲惨な現実を、理想化を排して赤裸々に描き出した小説群を指す呼称。「悲惨小説」とも呼ばれ、両者はしばしば同義として扱われる。硯友社系の作家・広津柳浪はその代表格で、醜い容貌ゆえに虐げられた男の悲劇を描く『変目伝』、因業な舅に虐げられる嫁の悲劇を描く『黒蜥蜴』(ともに明治28年)、『河内屋』(明治29年)など、貧困や遺伝、因習に押しつぶされる人々の運命を描き続けた。吉原の娼妓の悲恋と死を写実の筆で描いた『今戸心中』(明治29年〔1896年〕7月、「文芸倶楽部」)は、深刻小説の頂点をなす作品とされる。観念小説の泉鏡花・川上眉山とも重なり合う潮流で、銘酒屋の女の哀しい運命を描いた樋口一葉の『にごりえ』(明治28年)も、同じ時代の空気のなかで読まれた。硯友社の雅俗折衷の通俗的な人情本から一歩踏み出し、日清戦争後の社会不安を背景に弱者への同情と社会批判をにじませた点に共通の特色がある。ただし人物を不幸に追い込む筋立てが型にはまりやすいとの批判もあり、流行は数年で過ぎた。理想化を排して現実を凝視するその姿勢は、のちの自然主義文学の先駆的な要素の一つとして位置づけられる。