自然主義とは
- 分類
- 文芸思潮
- 読み
- しぜんしゅぎ
人間と社会の現実を、理想化を排してありのままに描こうとする文芸思潮。フランスのゾラが唱えた、遺伝と環境から人間を科学的に観察する自然主義に発するが、日本では作家自身の生活の偽らざる告白を重んじる方向へ独自の展開を遂げた。明治30年代半ばには小杉天外・永井荷風らがゾラに学んだ作品を書いたが、島崎藤村が被差別部落出身の青年教師の苦悩を描いた『破戒』(明治39年)で本格的な口火を切り、田山花袋が中年作家の女弟子への愛執を赤裸々に描いた『蒲団』(明治40年)で方向が決定づけられた。島村抱月らが「早稲田文学」で理論の面から運動を支え、「事実をありのままに写す」平面描写・無理想無解決を掲げて明治40年代の文壇を制した。花袋は一人の青年教師の短い生涯をたどる『田舎教師』(明治42年)を書き、徳田秋声は『黴』(明治44年)で作者自身の家庭生活を淡々と写して独自の境地を開いた。岩野泡鳴の『耽溺』(明治42年)、正宗白鳥の『入江のほとり』(大正4年)、近松秋江らの作品もこの流れに連なり、武蔵野の自然を清新な散文に描いた国木田独歩は先駆者に数えられる。現実凝視の姿勢は近代小説の写実を深め、日本特有の私小説の源流となったが、題材の狭さと陰鬱さへの反発から余裕派・耽美派・白樺派など反自然主義の諸潮流を生み、大正期に入ると退潮した。