写実主義とは

分類
文芸思潮
読み
しゃじつしゅぎ

人間の内面や世相を、理想化や教訓を交えずにありのままに描こうとする文学上の立場で、日本では明治10年代の末に唱えられた近代文学最初の理念。西洋では19世紀のフランスでバルザックやフローベールが、ロシアではツルゲーネフらが、市民社会の現実を細密に描く小説を生み、この潮流がリアリズム(写実主義)と呼ばれた。日本では、江戸の戯作を支配した勧善懲悪の考え方を退けて、坪内逍遥が評論『小説神髄』(明治18〜19年〔1885〜86年〕)で「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」と説き、理論的な口火を切った。逍遥は自作『当世書生気質』で実践を試みたが、戯作の文体と趣向からは抜け切れなかった。逍遥のもとを訪ねた二葉亭四迷は、評論『小説総論』(明治19年)で、形として現れた現象を借りてその奥にある本質を写すことこそ小説の務めだと説き、ロシア写実主義文学に学んで言文一致体で書いた『浮雲』(明治20〜22年)で、自意識に悩む青年の心理を内側から描いて、写実主義を作品として成立させた。二葉亭が訳したツルゲーネフの『あいびき』(明治21年)の精緻な自然描写も、のちの作家たちに大きな影響を与えている。この理念は、江戸の古典に手本を求めた擬古典主義の尾崎紅葉・幸田露伴らの「紅露時代」にも受け継がれ、日清戦争後の観念小説・深刻小説や浪漫主義、明治末の自然主義へと連なる近代小説の源流となった。

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