観念小説とは

分類
形式・ジャンル
読み
かんねんしょうせつ

日清戦争(明治27〜28年)直後の明治28年(1895年)前後、社会の矛盾や作者自身の思想・観念を作品の主題としてはっきり打ち出した小説群を指す、当時の批評から生まれた呼称。硯友社の一員として尾崎紅葉に学んだ泉鏡花は、職務の規則と人情の相克を描いた『夜行巡査』(明治28年4月、「文芸倶楽部」)、身分を超えた愛を描いた『外科室』(同年6月、同誌)でこの呼称を得て文壇に躍り出た。翌年にも、日清戦争の従軍記者と赤十字の看護員の姿を通して愛国の名のもとの非情を問う『海城発電』、因習の結婚に苦しむ女を描く『化銀杏』を発表している。同じく硯友社系の川上眉山も、立身出世の俗物と清貧の理想家を対比した『書記官』(同年2月、「太陽」)、『うらおもて』で観念小説の代表作家に数えられる。森鴎外は「所謂観念小説は狭き世界観若くは或る世界観の一片を写せる小説なり」と評した。作者の思想を掲げた文学として一時は注目を集めたが、観念が先に立って人物が図式的になるとの批判も受け、鏡花が明治30年代に幽玄・幻想の作風へ転じるとともに退潮した。同じ時期に社会の暗部を描いた深刻小説(悲惨小説)と並べて語られ、のちの社会小説への橋渡しとも位置づけられる。

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