化銀杏(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
念じるだけで人は殺せるか
- 心理
- 怪奇
- 文字数
- 27,180字
- 読了目安
- 約54分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
望まぬ結婚に縛られた女の内面を描いた初期作。1896年(明治29年)2月、雑誌「文芸倶楽部」に発表された。場末の借家で、下宿する少年を相手に身の上を語りつづける若い妻。良人を憎みながら世間体に縛られ、「死ねばいい」と念じつづける彼女の心を描く。女の情念を凝視する鏡花の主題が、早くも鮮明に現れた一篇。
あらすじ
場末の古家の二階を貸す家の細君・お貞は二十一。祖父の代からの縁で結ばれた良人は、学校の教師をつとめる髯の男である。二階に下宿する少年・芳之助を相手に、お貞は長々と身の上を語る。祖父の看病の日々、東京へ出た良人から毎月送られてきた写真、黒眼鏡をかけて帰ってきた良人の奇癖、そして父に懐かず母だけを慕って死んだ幼い子・環のこと。式三献をしただけで夫婦になり、女の身体は男のものになる——その理不尽を語りながら、お貞は「死ねば可い」と念じつづける自分に怯えていた。やがて良人は病に倒れ、寝ずの看病を受けながら、静かにお貞へ言い渡す。
登場人物
- お貞 二十一の細君。望まぬ結婚に縛られ、良人の死を念じつづける
- 芳之助(芳さん) 二階に下宿する少年。お貞の話し相手となる
- お貞の良人 学校の教師をつとめる髯の男。病床でお貞の心を見抜く
- お蓮 芳之助の姉。若くして配偶を誤り、入水して果てた
冒頭部(原文より)
貸したる二階は二間にして六畳と四畳半、別に五畳余りの物置ありて、月一円の極なり。家主は下の中の間の六畳と、奥の五畳との二間に住居いて、店は八畳ばかり板の間になりおれども、商売家にあらざれば、昼も一枚蔀をおろして、ここは使わずに打捨てあり。
「化銀杏」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
渠は恐懼て日光を見ず、もし強いて戸を開きて光明その膚に一注せば、渠は立処に絶して万事休まむ。 光を厭うことかくのごとし。されば深更一縷の燈火をもお貞は恐れて吹消し去るなり。 渠はしかく活きながら暗中に葬り去られつ。良人を殺せし妻ながら、諸君請う恕せられよ。あえて日光をあびせてもてこの憐むべき貞婦を射殺すなかれ。
「化銀杏」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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