春の夜(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
坂道で出会った同じ顔
- 怪奇
- 心理
- 文字数
- 2,515字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
芥川龍之介の掌編。大腸カタルで寝込んだ「僕」が、付き添いの看護婦Nさんから聞いた話を書きとめた形になっている。結核の姉弟がいる家に勤めた看護婦が、ある晩、坂道で病床の弟とそっくりの顔をした少年に出会う。怪談めいた不気味さのなかに、語り終えたあとの短い問答が余韻を残す。「文藝春秋」1926(大正15)年9月号に発表。
あらすじ
「僕」は弟の転地先の宿屋で下痢に苦しみ、看護婦のNさんの世話になる。五月雨の降る午後、Nさんが粥を煮ながら昔の話をする。ある春、Nさんは看護婦会から牛込の野田家へ行った。女隠居と、肺結核の姉の雪さん、弟の清太郎がいる家で、離れの庭には木賊ばかりが茂っていた。清太郎は二十一歳、顔の透きとおるような、はにかみ屋の青年である。ある晩、氷を買いに出たNさんは、帰りの坂道で後ろから少年に抱きつかれる。「姐さん、お金をおくれよう」という声も、闇に見えた顔も、清太郎にそっくりだった。大声で人を呼ぶと少年は離れ、Nさんは氷を抱えたまま家へ駆け込む。茶の間で事情を話すと、隣室の雪さんが険のある声で母を制した。気になって離れへ行くと、清太郎は静かに眠っていた。話を聞き終えた「僕」が、あなたはその人が好きだったのでしょうと意地の悪い問いを投げると、Nさんは意外なほどさっぱりと答える。
冒頭部(原文より)
これは近頃Nさんと云う看護婦に聞いた話である。Nさんは中々利かぬ気らしい。いつも乾いた唇のかげに鋭い犬歯の見える人である。 僕は当時僕の弟の転地先の宿屋の二階に大腸加答児を起して横になっていた。下痢は一週間たってもとまる気色は無い。そこで元来は弟のためにそこに来ていたNさんに厄介をかけることになったのである。
「春の夜」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
僕はこの話の終った時、Nさんの顔を眺めたまま多少悪意のある言葉を出した。 「清太郎?――ですね。あなたはその人が好きだったんでしょう?」 「ええ、好きでございました。」 Nさんは僕の予想したよりも遥かにさっぱりと返事をした。
「春の夜」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。