書簡体小説とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- しょかんたいしょうせつ
登場人物が書いた手紙(書簡)を連ねる形で物語を展開する小説。書き手が心の内をじかに打ち明ける告白の力をもち、差出人と受取人のあいだの行き違いや、手紙に書かれなかったことが生む余白も、この形式ならではの効果となる。西洋では18世紀に大いに流行し、リチャードソン『パミラ』(1740年)、ルソー『新エロイーズ』(1761年)、ゲーテ『若きウェルテルの悩み』(1774年)、ラクロ『危険な関係』(1782年)などの名作が生まれた。日本の近代小説では、夏目漱石『こころ』(大正3年)の「下 先生と遺書」が、語り手の青年にあてた先生の長い手紙として書かれ、作品の核心をなしている。梶井基次郎『Kの昇天』(大正15年)は、友人Kの溺死について問い合わせてきた手紙への返信という形で、月夜の幻想的な死を語る。夢野久作『瓶詰地獄』(昭和3年)は、三本の麦酒瓶に封じられて見つかった三通の手紙によって、孤島に漂着した兄妹の運命を浮かび上がらせた。この形式を好んだのが太宰治で、自分にあてた手紙だけで構成した『虚構の春』(昭和11年)のほか、作家どうしの往復書簡から成る『風の便り』、療養所の青年が親友に書き送る手紙で綴った戦後の長編『パンドラの匣』などがある。