風の便り(太宰治)のあらすじ・登場人物
無名作家と老大家の往復書簡
- 心理
- 文字数
- 33,054字
- 読了目安
- 約1時間6分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
十二通の手紙だけで構成された書簡体小説。1942年(昭和17年)4月に発表された。四十ちかくになっても無名の作家・木戸一郎が、二十年間ひそかに敬慕してきた老作家・井原退蔵へ、突然の手紙を書き送る。返ってきたのは、優しさと容赦のない叱咤とが入り混じった返書だった。作家であることの苦しさ、才能と修行、そして人と人との距離を、往復書簡の形で描き切っている。
あらすじ
拝啓、突然にて、おゆるし下さい——十年一日のごとくまずしい小説ばかり書いてきた四十ちかくの作家・木戸一郎は、二十年前から敬慕しつづけてきた十五歳年上の作家・井原退蔵へ、思い切って手紙を書く。井原の新作「華厳」に興奮しての、抑制を破った一通であった。返書には、君の作品は十九世紀の完成品にとどまっているという批評と、君の手紙は嘘だらけだという叱責とが並んでいた。うろたえた木戸は仕事のために山の温泉宿へこもるが、一枚も書けない。そこへ井原自身が現れ、二日間を共に過ごす。やがて木戸は「出エジプト記」を題材にした新作へ向かい、二人の文通は思わぬ形へ流れていく。
登場人物
- 木戸一郎 四十ちかくになっても無名の作家。井原退蔵へ突然の手紙を書き送る
- 井原退蔵 木戸より十五歳年長の作家。優しさと容赦のない叱咤の入り混じった返書を寄こす
冒頭部(原文より)
拝啓。 突然にて、おゆるし下さい。私の名前を、ご存じでしょうか。聞いた事があるような名前だ、くらいには、ご存じの事と思います。十年一日の如く、まずしい小説ばかりを書いている男であります。と言っても、決して、ことさらに卑下しているわけではございません。私も、既に四十ちかくに成りますが、未だ一つも自身に納得の行くような、安心の作品を書いて居りませんし、また私には学問もないし、それに、謂わば口重く舌重い、無器用な田舎者でありますから、濶達な表現の才能に恵まれている筈もございません。
「風の便り」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
はっきり言うと、自分は、あの温泉宿で君と遊んで、たいへんつまらなかった。君はまだ、作家を鼻にかけている。そうして、井原と木戸を、いつでも秤にかけて較べてみていました。つまらない。 あんまり悪口を言うと、君がまた小説を書けなくなるといけないから、最後に一つだけ、君を歓ばせる言葉を附け加えます。 「天才とは、いつでも自身を駄目だと思っている人たちである。」 笑ったね。匆々。
「風の便り」太宰治(青空文庫)
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