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わが町(織田作之助)のあらすじ・登場人物

難工事を生涯の誇りに生きた男

  • 心理

織田作之助 1942年(昭和17年)11月 「文藝」

文字数
25,873字
読了目安
約52分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 大阪府

この作品について

織田作之助が1942年(昭和17年)、「文藝」に発表した短編小説。大阪の下町を舞台に、フィリピン・ルソン島のベンゲット道路建設の難工事に加わった過去を生涯の誇りとする一人の男「他あやん」と、その血を継ぐ者たちの姿を描く。頑固で一本気なターザンこと他吉の生きざまと、大阪の庶民の暮らしへの深い愛着とを、織田らしい軽妙で情のこもった筆致でつづった、代表的な「大阪もの」の一編である。

あらすじ

明治の末、フィリピン・ルソン島の山中で、マニラとバギオを結ぶベンゲット道路の開鑿という命がけの難工事に加わった大阪の男・他吉――通称「他あやん」。多くの人夫が谷底へ落ちて死に、風土病に倒れるなか、彼はこの過酷な工事をやりぬいたことを、生涯変わらぬ誇りとして生きていく。大阪の下町に戻った他吉は、頑固で一本気な、そして情に厚い男として、町の人々とともに暮らしを立てていく。娘や、その子どもたち――孫の代へと血がつながっていくなかで、他吉の口ぐせや生き方は、知らず知らずのうちに子孫へと受け継がれていく。年老いてなお「ターザン」の異名で知られた他吉の姿と、彼をめぐる大阪の庶民の哀歓とが、歳月とともに描かれる。孫の次郎はやがて、他吉の生きざまのなかに、自分もまた海の彼方のマニラへ渡るべき運命を感じ取るのだった。大阪の町とそこに生きる人々への深い愛着を、織田が軽妙かつ情ゆたかに描いた代表的な一編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

壱、明治  マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、タグパン・バギオ山頂間八十粁の開鑿は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事で、人夫たちはベンゲット山腹五千呎の絶壁をジグザグに登りながら作業しなければならず、スコールが来ると忽ち山崩れや地滑りが起って、谷底の岩の上へ家守のようにたたき潰された。

「わが町」織田作之助(青空文庫)

末尾部(原文より)

 次郎はふと君枝の横顔を見て、ああ、他あやんに似ているとどきんとした咄嗟に、今度は自分たちがマニラへ行く順番だという想いが、だしぬけに胸を流れた。他あやんはついぞこれまで、言葉に出しては、アメリカの船を引揚げにマニラへ行けとは言わなかったけれど、そんな風に死んだのを見れば、もう理窟なしにそうしろと命じられたのも同じだ、いや、君枝を娶った時からもうこのことは決っていたのだという想いが、何か生理的に来て、次郎は額の写真を暫らく見上げていた。

「わが町」織田作之助(青空文庫)

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