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雨(織田作之助)のあらすじ・登場人物

逆らわぬ母と誇り高い息子

  • 心理
  • 家族

織田作之助 1938年(昭和13年)11月 「海風」

文字数
30,421字
読了目安
約1時間1分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 大阪府

この作品について

織田作之助が1938年(昭和13年)11月、同人誌「海風」に発表した初期の小説で、「ひとりすまう」に続けて書かれ、武田麟太郎の目にとまったとされる。浄瑠璃本の写本師の娘お君は、「私はどうでも宜ろしおます」が口癖で、境遇に逆らわず、男たちにも身を任せて生きてきた。物語は、そのお君と、彼女が小学校教員との間にもうけた息子豹一の歳月を、日本橋や上塩町の路地裏など大阪の下町の暮らしとともにたどる。のちの長編『青春の逆説』の主人公と同じ毛利豹一の少年期を描いた作品で、傷つきやすい自尊心を抱えた豹一の心の動きを、作者が分析を加えながら追っていく語りに特徴がある。

あらすじ

浄瑠璃本の写本師毛利金助の一人娘お君は、十八で小学校教員の軽部武彦に身を任せて結婚し、男の子豹一を産むが、出世を夢見ていた軽部は急性肺炎であっけなく死ぬ。実家に戻ったお君は、父の金助も電車にひかれて亡くすと、裏長屋で裁縫を教えながら豹一を育てる。何事にも「私はどうでも宜ろしおます」と逆らわないお君は、豹一が八つの秋、廃電球の口金商野瀬安二郎の後妻となる。

婚礼の夜、雇人に母を卑しめる話を聞かされた豹一は、性的なものへの嫌悪と義父への敵意を抱いて育つ。中学では首席を通すが、自尊心から白紙の答案を出して落第し、樟蔭女学校の水原紀代子から届いた恋文を級友に見せびらかした騒ぎで退学になる。専検を経て三高に入るものの、学資に苦しむ母を思って退学し、母が義父の身代わりのように留置されたことで安二郎とぶつかって家を出る。汽船の火夫や円タクの助手をし、遊廓の妓と夫婦約束をするが、妓は博奕打ちに落籍され、豹一は嫉妬に苦しんだあげく喀血する。

一方お君は、豹一の家出をきっかけに初めて自分というものに目覚め、雇人の森田と過ちを犯す。妻を女として意識しはじめた安二郎は嫉妬に苦しみ、豹一のもとへ来て、家に戻って母を見張ってくれと頼む。母の看病で持ち直した豹一は、喫茶店の少女友子を賭けのように口説き、半年後に妊娠を知らされて結婚する。二十歳で父となった豹一と、三十八で孫を持ったお君は、秋の雨の日に朗らかに笑い合う。

登場人物

冒頭部(原文より)

 歳月が流れ、お君は植物のように成長した。一日の時間を短いと思ったことも、また長いと思ったこともない。終日牛のように働いて、泣きたい時に泣いた。人に隠れてこっそり泣くというのでなく、涙の出るのがたゞ訳もなく悲しいという泣き方をした。自分の心を覗いてみたことも他人の心を計ってみたこともなく、いわば彼女にはたゞ四季のうつろい行く外界だけが存在したかのようである。もとより、立て貫ぬくべき自分があろうとは夢にも思わず、あるがまゝの人生にあるがまゝに身を横たえて、不安も不平もなかった。境遇に抗わず、そして男たちに身を任せた。蝶に身を任せる草花のように身を任せた。

「雨」織田作之助(青空文庫)

末尾部(原文より)

お君はしげ/″\と豹一の所にやって来た。火鉢の上でお襁褓を乾かしながら、二十歳で父となった豹一と、三十八歳で孫をもったお君は朗らかに笑い合った。安二郎から帰って来いと迎えが来ると、お君は、また来まっさ、さよならと友子に言って、雨の中を帰って行く。一雨一雨冬に近づく秋の雨がお君の傘の上を軽く敲いた。

「雨」織田作之助(青空文庫)

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