かめれおん日記(中島敦)のあらすじ・登場人物
カメレオンと喘息の教師
- 心理
- 文字数
- 19,740字
- 読了目安
- 約39分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
中島敦の短編。1936(昭和11)年に第1稿を書き、その後改稿を重ねて、1942(昭和17)年11月刊の第二創作集『南島譚』に、「狼疾記」とともに「過去帳」の総題で収められた。女学校で博物を教える「私」が、生徒から生きたカメレオンを贈られ、アパートの部屋で飼う日々を日記のように綴る。冒頭に『韓非子』の一節を掲げ、小さな爬虫類を眺めながら、喘息に悩む教師が自分の性情や同僚たちの姿を顧みていく。作者自身も当時、横浜の女学校の教師だった。
あらすじ
港町の女学校で博物を教える「私」は、ある日生徒から、親戚の船員がカイロで手に入れたという生きたカメレオンを贈られる。学校に温室がないため、ひとまずアパートの部屋で飼うことにした「私」は、珍しい小動物の出現に、久しく眠っていた異国趣味が目を覚ますのを感じる。一方で、喘息の発作と薬に悩まされ、身を打ち込める仕事も持たない「私」は、自分の生き方のみじめさを顧み、何事も永遠と比べて無意味を感じてしまう性質や、失望しないために初めから希望を持たない臆病さを書きつけていく。同僚の国語教師・吉田は、職員の俸給表を調べ上げ、喧嘩をしては「辞めてもえゝのんや」と騒ぎ、学務部長と近づきになったことを無邪気に喜ぶ精力家で、「私」はその姿を嗤いながらも羨ましく思う。カメレオンは寒さに弱り、後肢の傷も広がって、「私」は同僚のY君に頼んで上野の動物園に引き取ってもらう。空になった籠を前にした翌日、「私」は霧の立ちこめる山手の外人墓地を歩き、エウリピデスの一節を思い出しながら、ルクレティウスの本を開かないまま坂道を下りていく。
登場人物
- 私 女学校の博物の教師。喘息に苦しみ、自分の生き方に倦んでいる
- 吉田 国語の教師。精力的で実務に長け、他人の内情に通じた男
- Y君 東京から通う地理の教師。カメレオンを動物園へ運ぶ
- K君 英語の高等教員検定試験に合格して有頂天の教師
冒頭部(原文より)
蟲有者。一身兩口、爭相也。遂相食、因自殺。 ――韓非子―― 一 博物教室から職員室へ引揚げて來る時、途中の廊下で背後から「先生」と呼びとめられた。 振返ると、生徒の一人――顏は確かに知つてゐるが、名前が咄嗟には浮かんで來ない――が私の前に來て、何かよく聞きとれないことを言ひながら、五寸角位の・蓋の無い・菓子箱樣のものを差出した。箱の中には綿が敷かれ、其の上に青黒い蜥蜴のやうな妙な形のものが載つてゐる。
「かめれおん日記」中島敦(青空文庫)
末尾部(原文より)
こんな言葉を思出しながら、周圍の墓々を見すと、死者達の哀しい執着が――「願望はあれど希望なき」彼等の吐息が、幾百とも知れぬ墓處の隅々から、白い靄となつて立昇り、さうして立罩めてゐるやうに思はれる。 ルクレティウスを竟に開かないまゝに、私は腰を上げる。海の上の烟つた灰色の中から、汽笛がしきりに聞えてくる。傾斜した小徑を私はそろ/\下り始める。
「かめれおん日記」中島敦(青空文庫)
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