アプリで読む

無料・登録不要

クロイツェル・ソナタ(トルストイ)のあらすじ・登場人物

汽車の中で語られる結婚の告白

  • 心理
  • 翻訳

トルストイ 訳者 米川正夫 1928年(昭和3年)9月

文字数
107,330字
読了目安
約3時間35分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

トルストイの中編小説。1880年代末に書かれ、結婚と性愛を厳しく論じた内容のために帝政ロシアで出版が妨げられたことで知られる。二昼夜続く汽車の旅で、同じ車室の乗客たちが結婚と愛を論じるところから、白髪まじりの紳士が自分の結婚生活を語りだす枠物語の形をとる。題はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番に由来し、音楽が物語の鍵になる。青空文庫版は米川正夫訳(岩波文庫、1928年初版)で、作者が問い合わせに答えて書いたあとがきも付く。

あらすじ

早春、二昼夜続く汽車の旅。同じ車室の乗客たちは、愛のない結婚は不道徳だという婦人の意見をめぐって議論になる。そこへ、白髪まじりの紳士が奇妙な笑いをもらして口をはさみ、やがて語り手に請われて、自分はポズドヌイシェフという者だと名乗り、身の上を語りはじめる。放蕩の青年時代を送ったのち世間並みに結婚した彼は、甘いはずの蜜月が退屈と気まずさに変わり、新婚のうちから妻と些細なことでいさかうようになる。子供が生まれても二人の仲は変わらず、日ごとのいさかいと憎しみが続く。やがて妻がトルハチェーフスキイというヴァイオリン弾きと親しくなり、クロイツェル・ソナタを合わせるようになると、彼の嫉妬は抑えがたくなる。二日の予定で田舎へ出かけた彼は不安に耐えられず、予定を切り上げて夜中に帰宅する。靴を脱いで忍び足で壁の匕首を取り、二人のいる部屋の戸を開ける。男は逃げ、彼は妻を刺す。妻はやがて死に、彼は葬儀で妻の亡骸を見てはじめて自分のしたことを悟ったと語る。話を終えた彼は、朝に汽車を降りる語り手に、泣き出しそうな笑いを見せるのみだった。巻末には、作者が結婚と純潔について自説をまとめたあとがきが付く。

登場人物

冒頭部(原文より)

 早春のことであった。わたしたちはもう二昼夜も旅行をつづけていた。短距離旅行の人は、汽車を出たり入ったりしていたが、わたしのように汽車の出たところから乗り通しているものは、三人しかなかった。それは、半ば男物めいた外套を着て小さな帽子を被り、疲れきったような顔をして、煙草をぷか/\吹かす、あまり美しくない相応な年配の婦人と、きちんとした真新しい身の廻りのものを持った、四十恰好の話ずきなその道づれと、ただ一人孤独を守っている背の高くない紳士であった。この紳士はものごしが妙に突発的で、まだそう年寄りでもないらしいのに、房々と渦巻いた髪の毛には早くも白髪が見えはじめ、異様に輝く眼はものからものへと素ばやく走っていた。

「クロイツェル・ソナタ」トルストイ(青空文庫)

末尾部(原文より)

『いや、どうも失礼しました‥‥』彼はわたしから顔をそむけて、毛布にくるまりながら、腰掛の上に横になった。わたしが、下車しなければならない駅へ着いたとき(それは朝の八時であった)、私は彼の傍へ別れを告げに近寄った。けれど、寝ていたのか、それとも寝たふりをしていたのか、彼は身動きもしなかった。わたしは手を伸して彼に触った。すると、彼は眼を開けたが、寝ていた様子もなかった。 『さよなら。』と私は手を差し出しながらいった。彼はわたしの方に手を伸しながら、ほんの心持にっと笑った。けれど、その笑いがいかにもみじめで、わたしは泣き出したいくらいであった。 『いや、失礼しました。』と彼は自分の長物語を結んだ時と同じ言葉を、もう一ど繰り返した。

「クロイツェル・ソナタ」トルストイ(青空文庫)

名文

早春のことであった。わたしたちはもう二昼夜も旅行をつづけていた。

『クロイツェル・ソナタ』の書き出し。長い汽車旅の車中で、乗り合わせた男が結婚と嫉妬をめぐる告白を始める枠物語の幕開け。

音楽は霊魂を高めも低めもしません、ただ魂をいら〳〵さす働きを持っているのです。なんてったらいいでしょう? 音楽は自分を忘れさせ、自分の位置を忘れさせます。

語り手ポズドヌイシェフが、妻と音楽家の合奏したベートーヴェンの曲を振り返って語る音楽論。題名の由来となった場面の一節。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品