パアテル・セルギウス(トルストイ)のあらすじ・登場人物
近衛士官から隠者へ
- 心理
- 翻訳
- 文字数
- 53,136字
- 読了目安
- 約1時間46分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
トルストイが1890年代に書き進め、没後の1911年に発表された中編「神父セルギイ」を、森鴎外がドイツ語訳から訳したもの。1913年(大正2年)9月の『文藝倶楽部』に掲載され、のちに翻訳集『諸国物語』に収められた。ニコライ一世の時代、皇帝に心酔し、何事にも人に抜きんでようとする近衛士官の侯爵ステパン・カツサツキイが、結婚を目前にして職を辞し、僧院に入る。名誉心と信仰のあいだで揺れる一人の人間の生涯を、鴎外の簡潔な口語の訳文でたどる。
あらすじ
1840年代のペテルブルグ。皇帝ニコライ一世に心酔し、何事にも人に抜きんでようとする近衛士官の侯爵ステパン・カツサツキイは、美しい女官マリイと婚約する。だが式の前、彼女がかつて皇帝の寵愛を受けていたと打ち明けられ、辞職して僧院に入る。僧セルギウスとなった彼は服従と修行に励むが、驕慢の心を捨てきれず、師の勧めで山腹の洞窟の草庵にこもる。六年目、仲間と賭けをした離婚歴のある美しい夫人マスコフキナが夜の草庵を訪れて誘惑するが、セルギウスは斧で自分の指を切り落として誘惑を退け、夫人はのちに尼となる。この出来事から評判が広まり、病人を癒す聖者として人が押し寄せるようになるが、彼は自分の行いが神のためでなく人の称賛のためになっていると苦しむ。ある日、商人が連れてきた心を病んだ娘マリアの誘惑に負けた彼は、翌朝、百姓の服を着て髪を切り、草庵を逃げ出す。死を思う絶望の中で幼なじみのパシエンカを思い出し、夢のお告げに従って彼女を訪ねると、貧しい暮らしの中で家族を支え、人のために生きる彼女こそ、知らず知らず神のために生きていたのだと悟る。セルギウスは名もない巡礼として村々をさまよい、旅行券を持たないために捕らえられてシベリアへ送られ、ある富裕な百姓のもとで菜園を作り、子どもに読み書きを教え、病人の世話をして暮らす。
登場人物
- ステパン・カツサツキイ(セルギウス) 皇帝に心酔する近衛士官から僧となった侯爵
- マリイ コロトコフ伯爵の令嬢。ステパンの許嫁
- ワルワラ ステパンの女きょうだい
- マスコフキナ 離婚歴のある美しい夫人
- マリア 商人が連れてきた心を病んだ娘
- パシエンカ(ブラスコヰア・ミハイロフナ) セルギウスの幼なじみ
冒頭部(原文より)
千八百四十何年と云ふ頃であつた。ペエテルブルクに世間の人を皆びつくりさせるやうな出来事があつた。美男子の侯爵で、甲騎兵聯隊からお上の護衛に出てゐる大隊の隊長である。この士官は今に侍従武官に任命せられるだらうと皆が評判してゐたのである。侍従武官にすると云ふ事はニコラウス第一世の時代には陸軍の将校として最も名誉ある抜擢であつた。この士官は美貌の女官と結婚する事になつてゐた。女官は皇后陛下に特別に愛せられてゐる女であつた。然るに此士官が予定してあつた結婚の日取の一箇月前に突然辞職した。そして約束した貴婦人との一切の関係を断つて、少しばかりの所領の地面を女きやうだいの手に委ねて置いて、自分はペエテルブルクを去つて出家しにある僧院へ這入つたのである。
「パアテル・セルギウス」トルストイ(青空文庫)
末尾部(原文より)
「Il dit, qu'il est un serviteur de Dieu.」(あれは自分が神の奴僕だと云つてゐます。) 「Il doit tre un fils de prtre. Il a de la race. Avez-vous de la petite, monnaie?」(あの男は司祭の倅かなんかでせう。品が好いですね。あなた小さいのがございますか。) フランス人はポツケツトを探つて、小銭を出して、巡礼一人に二十コペエケンづゝ遣つた。「Mais dite leur que ce n'est pas pour les cierges, que je leur donne, mais pour qu'ils se rgalent de th.」(だがあの人達に言つて聞かせて下さいよ。わたしがあの人達に遣るのは、蝋燭代ではありません。あの人達が一しよにお茶を飲むやうにと思ふのです。)
「パアテル・セルギウス」トルストイ(青空文庫)
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