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橇(黒島伝治)のあらすじ・登場人物

徴発された橇が雪原を走る

  • 社会

黒島伝治 1927年(昭和2年)9月 「文芸戦線」

文字数
11,664字
読了目安
約23分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

黒島伝治が1927年(昭和2年)、「文芸戦線」に発表した短編小説。シベリア出兵を題材にした作品の一つで、雪に覆われたロシアの村で、日本軍の御用商人が農民の親子に橇を出すよう迫る場面から始まる。徴用された橇の馭者となるロシアの青年と、彼らを使って雪原を進軍させられる日本兵の双方を描き、命令する者とされる者の隔たりを、凍てつく寒さの具体的な描写とともに浮かび上がらせる。

あらすじ

雪に覆われたロシアの村。日本軍の御用商人が農家を訪れ、ぞんざいなロシア語で、軍のために橇と馬を出すよう親爺のペーターに迫る。ペーターは容易に応じないが、戦争が始まるらしいと聞いた息子たちの心は騒ぎ、結局、若いイワンたちが馭者として駆り出される。日本兵を乗せた橇は、凍てつく雪原をパルチザン討伐のために進んでいく。兵士たちの多くは、自分たちがなぜロシア人を殺すために雪の曠野まで来なければならないのか分からず、指揮をとる近松少佐の無謀な命令に不満を募らせていた。戦闘が始まると、もう戦いをやめると言い出した兵士たちを、少佐は見せしめに撃たせる。それを目の当たりにしたイワンたち馭者は、日本人を運ばされたことに腹を立て、橇を返して雪の曠野の彼方へ走り去る。橇を失った大隊は、食べ物も尽き、凍えながら当てもなく雪原をさまよう。死を予感した兵士たちの怒りと憎しみは、自分たちをシベリアへ送り出した者の手先となって彼らを酷使した近松少佐へと向かっていく。

登場人物

冒頭部(原文より)

 鼻が凍てつくような寒い風が吹きぬけて行った。  村は、すっかり雪に蔽われていた。街路樹も、丘も、家も。そこは、白く、まぶしく光る雪ばかりであった。

「橇」黒島伝治(青空文庫)

末尾部(原文より)

 雪の曠野は、大洋のようにはてしなかった。  山が雪に包まれて遠くに存在している。しかし、行っても行っても、その山は同じ大さで、同じ位置に据っていた。少しも近くはならないように見えた。人家もなかった。番人小屋もなかった。嘴の白い烏もとんでいなかった。  そこを、空腹と、過労と、疲憊の極に達した彼等が、あてもなくふらついていた。靴は重く、寒気は腹の芯にまでしみ通って来た。……

「橇」黒島伝治(青空文庫)

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