豚群(黒島伝治)のあらすじ・登場人物
豚を野に放て、持主を分らなくしろ
- 社会
- 文字数
- 7,242字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 香川県
この作品について
1926年(大正15年)に発表された黒島伝治の農民小説。小作争議のために田畑は耕されず、村の小作人たちは豚を飼って生計をつないでいる。地主である醤油屋は、小作料の代わりにその豚を差し押さえようとする。押さえに来たら豚を柵から放って持ち主を分からなくしてしまおう——そう申し合わせた百姓たちのなかから、自分の畑と上等な豚を惜しむ裏切り者が出る。執達吏に追い回される豚の群れの滑稽な騒ぎを描きながら、団結する者と抜け駆けする者のそれぞれの行く末を、乾いた筆致で示す。
あらすじ
健二は親爺と二人、半年ばかり豚飼いにかかりきりである。小作料のことでもめて田畑は昨秋から耕されず、村の小作人はみな豚飼いに早変わりしていた。三十貫の豚が一匹あれば、潰して売って一家がひと月食っていける。地主の醤油屋は、その豚を小作料の代わりに差し押さえようとしていた。そこで百姓たちは、執達吏が来たら一斉に豚を柵から放ち、持ち主を分からなくしてしまおうと申し合わせる。会合の席では一人の反対者もなかった。だが裏切る者が出た。自分の麦畑を荒らされるのを嫌い、種のよい豚がよその痩せこけたものと入れ替わるのを惜しむ宇一が、放すなと村じゅうに触れて回っているのだ。ある朝、三人の執達吏が村に入ってきた。健二は柵を外して十頭ばかりを追い出すが、丘から見渡せば放たれた豚はわずかで、半数の家は出していない。やがて執達吏たちは上着を脱ぎ、棒を握って豚群のなかへ駆け込んでいった。追えば追うほど豚は野へなだれてゆき、麦畑の前では宇一が自分の畑を守って猛然と豚を殴り返す。一日かかって、役人が封印できたのは初めから豚を出さなかった二三の小屋だけだった。二週間後、健二が丘を登ると、封印された宇一の小屋から飢えた豚の呻きが響いてくる。
登場人物
- 健二 小作人の青年。町の醤油屋へ働きに出ていたが争議で解雇され、親爺と豚を飼っている
- 親爺 健二の父。仔をはらんだ牝豚を放すことをためらう
- 宇一 同じ村の小作人。自分の畑と豚を惜しんで申し合わせを裏切る
- 留吉 村に妻子を置いて働きに出ていた小作人。健二とともに豚を放つ
- 執達吏 豚小屋に封印をつけに来た三人の役人
冒頭部(原文より)
一 牝豚は、紅く爛れた腹を汚れた床板の上に引きずりながら息苦しそうにのろのろ歩いていた。暫く歩き、餌を食うとさも疲れたように、麦藁を短く切った敷藁の上に行って横たわった。腹はぶってりふくれている。時々、その中で仔が動いているのが外から分る。だいぶ沢山仔を持っていそうだ。健二はじっと柵にもたれてそれを見ながら、こういうやつを野に追い放っても大丈夫かな、とそんなことを考えていた。
「豚群」黒島伝治(青空文庫)
末尾部(原文より)
それから一週間ほど、それ等の汚れた豚は昼夜わめきつづけていたが、ついに、一ツ一ツばた/\斃れだした。 野に放たれ騒いだ豚は、今、柵の中でおとなしく餌を食っている。 主謀者がその後どうなったか? いや、彼等は、役人に反抗したが、結局、どうにもせられなかった。 彼等は、やったゞけ、やり得だったのである。
「豚群」黒島伝治(青空文庫)
原文を読む
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