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浚渫船(葉山嘉樹)のあらすじ・登場人物

行李ひとつで放り出された

  • 社会

葉山嘉樹 1926年(昭和元年)9月 「文芸戦線」

文字数
5,208字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

1926年(大正15年)、「文芸戦線」に発表された短編。船上の事故で足を砕かれた水夫が、手当も補償もないまま懲戒下船させられ、二等運転士に付き添われて海事局へ向かう夜明けの数十分を描く。「一億円の資本を擁する大会社」と、行李ひとつを担いだ一人の労働者。橋の上から役に立たなくなった行李を運河へ投げ込む男の目に、朝の光の中で蒸気を上げ始める浚渫船が映る。舞台となる汽船・万寿丸は長編「海に生くる人々」と同じ名を持つ。

あらすじ

「私」の担いだ古行李には、死んだ人間の臓腑のように「もう役に立たない」ものばかりが詰まっている。船上の事故で左足の踝を砕かれ、綿を押し込んだだけの手当で放置されたまま、傷は化膿していた。それでも会社は治療費も傷害手当も出さず、懲戒下船の手続きだけを取った。「嘆願さえすれば船長も涙金くらい寄越す」となだめる二等運転士に、「私」は食ってかかりながら海事局へ向かう。一歩ごとに走る痛みに耐えかね、運河にかかる橋の上で行李を下ろして腰かけた。眼下では浚渫船が腰を据え、デッキの七輪から石炭の煙が上がっている。やがて「私」は行李を運河へ力一杯放り込んだ——「首なし死体を投り込んだんだよ」。振り返ると二等運転士は消えていた。自動車で助け乗せてくれる小説のヒロインも、もちろんいない。夜明けの風は爽やかで、浚渫船の船頭夫婦は朝飯を食い、火夫は「昨夜はもてたかい?」と笑って怒鳴ってくる。蒸気が上がり、轟音が朝を掻き裂いて、運転手も火夫も機械に吸い込まれていった。遊んでいては食えない、だから働く。働いて怪我をしても、働けなくなれば食えない——「私」は一つの重い計画を行李の代わりに背負って、桟橋へ引き返す。

登場人物

冒頭部(原文より)

 私は行李を一つ担いでいた。  その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。  ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まった、表紙と本文の半分以上取れた英訳本。坊主の除れたフランスのセーラーの被る毛糸帽子。

「浚渫船」葉山嘉樹(青空文庫)

末尾部(原文より)

 運転手がハンドルを握った。静寂が破れて轟音が朝を掻き裂いた。運転手も火夫も、鋭い表情になって、機械に吸い込まれてしまった。  ――遊んでちゃ食えないんだ。だから働くんだ。働いて怪我をしても、働けなくなりゃ食えないんだ!――  私は一つの重い計画を、行李の代りに背負って、折れた歯のように疼く足で、桟橋へ引っ返した。

「浚渫船」葉山嘉樹(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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