無名抄とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- むみょうしょう
鴨長明の歌論書。鎌倉時代初め、建暦元年(1211年)以後まもなく成ったと考えられている。長短約八十の段から成り、『無名秘抄』『長明無名抄』などとも呼ばれる。和歌の故実や詠歌の心得、歌人の逸話や語録を、自身の思い出を交えて自在につづった随筆風の書で、同時代の歌論書のなかでもとりわけ説話的な性格が強い。長明は俊恵に和歌を学んでその歌林苑の歌会に加わった人で、本書には師の教えや言葉が数多く書き留められ、俊恵の歌論を知る貴重な資料ともなっている。藤原俊成・源俊頼・源頼政ら先人の話も多い。後鳥羽院の和歌所の寄人として『新古今和歌集』の時代の歌壇に身を置いた長明は、当時の新しい歌風と古い歌風をめぐる議論を問答の形で論じ、その中で、言葉に表れない情趣を重んじる幽玄について説いている。この歌体を論じた段は、本書で最もよく知られる部分である。また、「ますほのすすき」のことを知るために雨の中を出かけた登蓮法師の話は、兼好法師の『徒然草』第188段にも引かれている。『方丈記』の作者として知られる長明の、歌人としての見聞と批評眼を伝える書であり、新古今時代の歌壇の様子を探るうえでも欠かせない資料とされる。