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赤い鳥(鈴木三重吉)のあらすじ・登場人物

本のなかの女に恋した青年

  • 恋愛
  • 青春

鈴木三重吉 1911年(明治44年)3月

文字数
35,001字
読了目安
約1時間10分
表記
旧字旧仮名
種別
小説

この作品について

1911年(明治44年)に書かれた鈴木三重吉の中編小説。のちに三重吉が創刊する児童雑誌と同じ題名を持つが、内容は童話ではなく、恋を知らない青年・冷吉が、本のなかの女に恋い焦がれ、現実の女にも触れてゆく、憂鬱な青春の物語である。訳書に描かれたオランダの古い町と壁画のマグダーレン、赤い鳥を逃がして去る女——書物のなかの幻影が、そのまま青年の心を占領してしまう。漱石門下の俊英として叙情的な小説を書いていた頃の三重吉の資質がよく表れた一作。

あらすじ

冷吉には現実に思う女がなかったので、かつて読んだ翻訳小説に出てくる、赤い鳥を逃がして家を出ていく女を自分の女として思い描いていた。舞台はオランダの古い町。フランスから来た青年画家が、寺院の壁画に描かれたマグダーレンに理想の女の姿を見出し、やがてその絵から抜け出たような生身の女——グレッチェンに出会って恋に落ちる。冷吉はその一節を繰り返し思い浮かべるのが癖になっていた。母に本を取り上げられてからは、作者の名すら思い出せない。それでも彼は恋の書かれた本を貪り読み、まだ見ぬ女を胸のうちで育て続ける。やがて彼のまわりにも現実の女たちが現れ、心を動かされる出来事も起こるが、書物の女の像はいよいよ濃く、現実の影を薄くしていくばかりだった。バルコニーを去りがたく思いながら、冷吉は「自分はどうしても赤い鳥を買って、それをあの女の紀念にしていつまでも逃がさずに飼っておくのだ」と心に言う。

登場人物

冒頭部(原文より)

 冷吉は自分には考へる女がなかつたものだから、讀んだ物の中の、赤い鳥を遁がして出て行く女を、自分の女にして考へてゐた。そのために自分に女のないのが餘計に暗愁を増すやうな事もあつたけれど、それでも外に何もないのだから、やつぱりその女を考へずにはゐられなかつた。  それは表紙が好きだから買つて來た、譯したものを集めた、或本に出てゐた小説であつた。冷吉はいつも、その女が家から遁げて出かけて、窓の鳥籠を下しに引き返すパセイジを考へ浮べるのが癖になつてゐた。

「赤い鳥」鈴木三重吉(青空文庫)

末尾部(原文より)

「さうして赤い鳥を。」と冷吉は心に言ひつゝ、いつまでも下りたくないバルコニーを、殘り惜しく去らなければならなかつた。自分はどうしても赤い鳥を買つて、それをあの女の紀念にしていつまでも逃がさずに飼つて置くのだ。それには何だか自分がもう目が暗くないのが拙らない。もう一度暗い目になりたい。暗い何にも見えぬ目をしてあの女を考へたい。さうしていつまでも赤い鳥を飼つてゐたい。――  冷吉はこのやうな事を考へつゝ、わざとぐづ/″\して梯子段を下りた。

「赤い鳥」鈴木三重吉(青空文庫)

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