すみだ川(永井荷風)のあらすじ・登場人物
大川べりに惜しむ江戸情緒
- 恋愛
- 青春
- 文字数
- 34,640字
- 読了目安
- 約1時間9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1909年(明治42年)12月、『新小説』に発表された永井荷風の小説。欧米から帰国した翌年に書かれ、隅田川沿いの風景と、芸事に親しむ人々の暮らしを重ねている。今戸で常磐津の師匠をする母のもとに育った中学生の長吉は、学校で求められる生き方と、自分が惹かれる芝居の世界との間にいる。伯父の俳諧師・蘿月や幼なじみのお糸を交え、家族の期待、芸への憧れ、若い心の行き場を描く。蝉や下駄の音、川辺の眺め、季節の移ろいが人物の心と結びつき、町の景色が物語の重要な一部を担う。荷風はのちの序文で、帰国後に見た東京の変化と、洋行以前の町や生活への懐かしさが執筆の動機だったと説明した。単に昔の風俗を記録するだけでなく、失われつつある景色をどう言葉に留めるかという作者の意識が、若者たちの生活に通っている。
あらすじ
隅田川のほとり、今戸に住む中学生の長吉は、幼馴染で芸者に出たお糸を密かに慕っている。学業に身が入らず役者になりたいと打ち明けた長吉は、伯父で俳諧師の松風庵蘿月に厳しく反対され、母お豊との間にも溝が生じて孤独を深めていく。お糸もまた芸者としての境遇に苦しみながら、長吉への想いを胸に秘めていた。夏から秋へと季節が移り、大川端の風物とともに二人の淡い恋心が描かれるが、やがて長吉は腸チフスに倒れる。息子の胸の内を綴った手紙を目にした蘿月は、初めてその真情を知り、長吉とお糸を添わせてやろうと心を決めるのだった。
登場人物
- 長吉 今戸に住む18歳の中学生。幼馴染のお糸を想いながら、役者になる夢と現実の間で苦悩する
- お糸 長吉の幼馴染。16歳で葭町の芸者となり、長吉への想いを胸に秘める
- お豊 長吉の母。常磐津の師匠として生計を立てる
- 松風庵蘿月 長吉の伯父。俳諧の宗匠。長吉の役者志望に反対する
- 吉 長吉の昔馴染。伊井一座の俳優
冒頭部(原文より)
一 俳諧師松風庵蘿月は今戸で常磐津の師匠をしている実の妹をば今年は盂蘭盆にもたずねずにしまったので毎日その事のみ気にしている。
「すみだ川」永井荷風(青空文庫)
末尾部(原文より)
昭和三年二月木村富子女史が拙著『すみだ川』を潤色して戯曲となしこれを本郷座の舞台に上した。その時重なる人物に扮した俳優は市川寿美蔵市川松蔦大谷友右衛門市川紅若その他である。木村女史の戯曲『すみだ川』はその著『銀扇集』に収められている。 昭和十年十月麻布の廬において 荷風散人識
「すみだ川」永井荷風(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。