青ひげ(ペロー)のあらすじ・登場人物
開けてはならない小部屋
- 怪奇
- 翻訳
- 文字数
- 5,987字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
フランスのシャルル・ペローが1697年に出した童話集『過ぎし昔の物語ならびに教訓』(いわゆる『ペロー童話集』)の一編「La Barbe bleue」を、楠山正雄が訳したもの(小峰書店『世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの』所収)。町にも田舎にも屋敷をかまえ、金銀の器や金塗りの馬車まで持つ大金持ちが、恐ろしい青いひげのせいで女たちから逃げられてばかりいる。男は近所の姉妹を田舎の屋敷に招いて一週間もてなし、ついに妹を妻に迎える。旅に出る夫は家じゅうの鍵を妻にあずけ、ただ一つ、地下の小部屋だけは決して開けてはならないと言いわたす。禁じられた扉をめぐって緊張が高まっていく昔話で、楠山訳もペロー自身が添えた短い教訓で結ばれる。
あらすじ
町にも田舎にも大きな屋敷を持つ金持ちの男は、恐ろしい青いひげのせいで誰からも逃げられていた。しかも以前に何人も妻を迎えながら、その妻たちはみな行方知れずになっていた。男は近所の奥さんと二人の娘を田舎の屋敷に招いてにぎやかにもてなし、すっかり打ち解けた妹のほうを妻に迎える。ひと月後、青ひげは六週間の旅に出ると言い、屋敷じゅうの鍵を妻にあずけて、地下の大廊下の奥にある小部屋だけは決して開けてはならないと命じる。妻は友人たちを招いて屋敷を見せてまわるが、小部屋のことが気になってたまらず、ひとりで地下へ降りて戸を開けてしまう。そこには血のかたまりがこびりついた床と、壁に立てかけられた五、六人の女の死骸があった。青ひげが結婚しては殺してきた妻たちだった。驚いて落とした鍵には血がつき、魔法の鍵なのでどうしても落ちない。その夕方、青ひげは不意に帰ってきて、翌朝、鍵の血を見て妻の裏切りを知り、死ななければならないと言いわたす。妻は祈りのための猶予をもらい、塔に上った姉のアンヌに、きょう訪ねてくるはずの兄たちが見えないかと何度も呼びかける。剣を振り上げた青ひげが妻の首をはねようとしたその時、竜騎兵と近衛騎兵の兄二人が駆けこみ、逃げようとする青ひげを刺し殺した。跡継ぎのない青ひげの財産は妻のものとなり、妻はそれを姉や兄たちに分けた。物語は、好奇心は満たされればすぐ後悔に変わり、高い代価を払うことになるという教訓で結ばれる。
登場人物
- 奥がた 青ひげの妻となった妹娘。禁じられた小部屋を開けてしまう
- 青ひげ 恐ろしい青いひげを生やした大金持ちの男
- アンヌ 奥がたの姉。塔の上から兄たちの姿を探す
- 兄たち 竜騎兵と近衛騎兵の二人の兄
冒頭部(原文より)
むかしむかし、町といなかに、大きなやしきをかまえて、金の盆と銀のお皿をもって、きれいなお飾りとぬいはくのある、いす、つくえと、それに、総金ぬりの馬車までももっている男がありました。こんなしあわせな身分でしたけれど、ただひとつ、運のわるいことは、おそろしい青ひげをはやしていることで、それはどこのおくさんでも、むすめさんでも、この男の顔を見て、あっといって、逃げ出さないものはありませんでした。 さて、この男のやしき近くに、身分のいい奥さんがあって、ふたり、美しいむすめさんをもっていました。この男は、このむすめさんのうちどちらでもいいから、ひとり、およめさんにもらいたいといって、たびたび、この奥さんをせめました。けれど、ふたりがふたりとも、むすめたちは、この男を、それはそれはきらっていて、逃げまわってばかりいました。なにしろ青ひげをはやした男なんか、考えただけでも、ぞっとするくらいですし、それに、胸のわるいほどいやなことには、この男は、まえからも、いく人か奥さまをもっていて、しかもそれがひとりのこらず、どこへどう行ってしまったか、ゆくえが分からなくなっていることでした。
「青ひげ」ペロー(青空文庫)
末尾部(原文より)
そのとたん、おもての戸に、ドンと、はげしくぶつかる音がしたので、青ひげはおもわず、ぎょっとして手をとめました。とたんに、戸があいたとおもうと、すぐ騎兵がふたりはいって来て、いきなり、青ひげにむかって来ました。これは奥がたの兄弟で、ひとりは竜騎兵、ひとりは近衛騎兵だということを、青ひげはすぐと知りました。そこで、あわてて逃げ出そうとしましたが、兄弟はもう、うしろから追いついて、青ひげが、くつぬぎの石に足をかけようとするところを、胴中をひとつきつきさして、ころしてしまいました。 でもそのときには、もう奥がたも気が遠くなって、死んだようになっていましたから、とても立ちあがって、兄弟たちを迎える気力はありませんでした。 さて、青ひげには、あとつぎの子がありませんでしたから、その財産はのこらず、奥がたのものになりました。奥がたはそれを、ねえさまやにいさまたちに分けてあげました。 ものめずらしがり、それはいつでも心をひく、かるいたのしみですが、いちど、それがみたされると、もうすぐ後悔が、代ってやってきて、そのため高い代価を払わなくてはなりません。
「青ひげ」ペロー(青空文庫)
名文
それもそのはず、このかぎは魔法のかぎだったのです。ですから、おもてがわのほうの血を落したかとおもうと、それはうらがわに、いつか、よけいこく、にじみ出していました。
禁じられた小部屋を開けた奥方が、鍵についた血を消せずにおびえる場面。ペロー『青ひげ』の恐怖を象徴する一節。
「アンヌねえさま、アンヌねえさま、まだなにもこないの。」
追いつめられた奥方が、塔の上の姉に兄たちの姿を問う言葉。繰り返される問いかけが、息づまる緊張を高めていく。
原文を読む
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