俊寛(倉田百三)のあらすじ・登場人物
島に取り残された俊寛
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 43,800字
- 読了目安
- 約1時間28分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 鹿児島県
この作品について
「平家物語」に名高い僧都俊寛の鬼界が島の物語を、三幕の戯曲に書き直した作品。1919年(大正8年)12月、「新小説」に発表された。ともに流された成経・康頼だけが赦されて船で去り、俊寛ひとりが島に取り残される——古典と同じ筋をたどりながら、倉田はそこに、飢えと孤独が友情を食い荒らしていく過程を描いた。赦しに満ちた「出家とその弟子」とはちょうど裏返しの、暗く激しい否定の劇であり、作者のもう一つの顔を伝える。
あらすじ
平氏打倒の企てが露見し、鬼界が島に流された俊寛・成経・康頼の三人。硫黄の煙の立つ荒れ果てた島で、成経は毎日浜辺に立って沖ゆく船を待ち、康頼は熊野権現に祈って千本の卒都婆を海に流しつづける。二年が過ぎ、飢えは三人の心をむしばみ、俊寛と成経はついに一羽の小鳥をめぐって弓を取り合うまでになる。そこへ都からの赦免の船が着いた。だが赦し文に記されていたのは成経と康頼の名だけで、俊寛の名はどこにもない。俊寛は船にすがって訴えるが、船は容赦なく沖へ去っていった。さらに七年。ひとり島に残された俊寛は、漁夫の魚を盗んで打たれるまでに落ちぶれている。やがて昔の家僮・有王が海を越えて主を訪ね、都に残した妻子の死を告げる。復讐の望みも絶えた俊寛は食を断つが、それでも死にきれない。静かに世を終わってくださいと諭す有王に、俊寛は骨髄に徹する恨みを手放そうとしない。嵐の夜、俊寛はよろめきながら岩の上によじ登り、月をにらんで立つ。
登場人物
- 俊寛 法勝寺の執行。鬼界が島にただ一人取り残され、世界そのものを呪って果てる
- 成経 丹波少将。毎日浜辺に立って沖の船を待ちつづける
- 康頼 平判官。熊野権現に祈り、千本の卒都婆を海に流す
- 有王 俊寛の昔の家僮。海を越えて主を訪ね、最期を看取る
- 丹左衛門尉基康 清盛の使者。赦し文のとおりに二人だけを連れ帰る
冒頭部(原文より)
人 法勝寺執行俊寛 丹波少将成経 平判官康頼 有王(俊寛の昔の家僮) 漁夫(男、女、童子ら数人) 丹左衛門尉基康(清盛の使者) その従者 数人 船頭 数人 時 平氏全盛時代 所 鬼界が島 第一幕 鬼界が島の海岸。荒涼とした砂浜。ところどころに芦荻など乏しく生ゆ。向こうは渺茫たる薩摩潟。左手はるかに峡湾をへだてて空際に硫黄が嶽そびゆ。頂より煙をふく。ところどころの巌角に波砕け散る。秋。成経浜辺に立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片にて卒都婆をつくっている。 成経 あゝとうとう見えなくなってしまった。九州のほうへ行く船なのだろう。それとも都へのぼる船かもしれない。わしの故郷のほうへ。 康頼 どうせこのような離れ島に寄って行く船はありませんよ。そんなに毎日浜辺に立って、遠くを通る船を見ていたってしかたがないではありませんか。
「俊寛」倉田百三(青空文庫)
末尾部(原文より)
俊寛 (岩かどに頭を打ちつける。倒れる) 間。 有王 (登場)ご主人様。(うろうろ捜す)あゝどこにゆかれたか。あゝわかっている。わかっている。何をあなたが思いつかれたか! あゝ恐ろしい。ご主人様。(砂の上に血の痕を見つける)おゝ。(血の痕をたどり、岩の上によじ、俊寛の死骸を見つける)おゝご主人様。(俊寛を抱き起こす。すでに絶息しおるを知る。地に倒れる。やがて起き上がり俊寛を抱きしめる。慟哭す。沈黙。やがて俊寛の死骸を抱きつつ)あゝ、いたわしいご主人様。苦しい苦しいご生涯でございました。なにゆえにあなたはこれほどの苛責をお受けにならなければならなかったのか。それは私にもわかりません。あゝしかしあなたの悪夢のような、ご生涯は終わりました。静かな平和な来世があなたを待っているように! (つくづくと俊寛の顔を見る)何という恐ろしい死に顔だろう。あゝご主人様、あなたは呪うて死なれましたか。天を恨み、世を憎み、敵を呪うて、恐ろしい、恐ろしい考えを死ぬる際まで持ちつづけて! あゝあなたの未来が恐ろしい。あゝ私がこの十年の間見てきたことは実に恐ろしい人生の相であった。(沈黙。やがて決心したるごとく立ち上がる。死骸に向けて)有王はどこまでもどこまでもお伴いたしますぞ。(俊寛の死骸を負う)あゝ仏様。私はこの世をいといまする。この恐ろしい世界から一時も早くのがれとうございます。私は主人とともに死にまする。私は何もわかりません。私の今することがたとえ間違っていようとも、なにとぞゆるしてくださいませ。あゝ主人の来世をお救いくださいませ。主人の霊を地獄より救い出してとこしえの平和を恵みたまえ。(死に場所を選びつつ)今私の霊をあなたの御手に託しまする。(俊寛の死骸を負いたるまま岩の上より海に身を投げる) あらしの音。波の音。月光ほしいままに浜辺を照らす。 ――幕――
「俊寛」倉田百三(青空文庫)
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